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2019年読んだ本書評集(その2)

日本のSF短編集。
その1で紹介した『ビットプレイヤー』より読みやすいんじゃなかろうか。
乗覚と呼ばれる超知覚がある世界で生きる表題作に始まり、様々な世界観/文体の短編が並ぶ。
どれもこれもしっかりSFなので読み応えがありながら、設定がそこまで入り組んでいないのである程度の読みやすさもある。
個人ベストは伊藤計劃トリビュートとして書かれた『美亜羽に贈る拳銃』。
人の意識を、精神を変質させられる技術が発展した世界での恋愛と、その歪み。
進化する科学技術と、私達の精神の関係について考えるいい機会になりますので是非どうぞ。
短編集の最後が爽やかに終わるのも気持ちがいい。
なんだかんだ幸せな結末が好き。

蔦屋書店のイベントで紹介されていたので予定外に買った本。
AV男優の立場から、AVと実際のセックスの違いを説明してくれる。
ものすごく大雑把に言ってしまえば「AVは観賞用に派手にやってるから真似したら駄目だよ」というもの。
さらっと読める本なので、自信がないとかAVみたいなことしたいと思う人は読んでおくと不幸を避けられるかもしれない。

超名作『蜜蜂と遠雷』の後日談。
本編でちらっとしか出てこなかった人や、あまり語られていない人を掘り下げるもので、本編が好きだったのなら読んで損はない。
読むと本編を読み返したくなるのは注意。

まさかの水墨画をメインテーマに据えた小説。
何故か妙に水墨画に関する描写が細かい…よほど取材を…?と思って調べると著者が水墨画家という展開。嘘だろ。
おだやかな空気と、そのなかでもがく人の感情が良い。
全体として平和な話ではあるんだけど、水墨画とかいう深すぎる芸術をやるので登場人物が深すぎて苦しんだり深まれなくて苦しんだりする。
でも爽やかな後味なので、多少苦くても飲んでみるといい。

冲方丁の時代小説。
天地明察はメディアミックスもあって有名だけど、そのあともいろいろな時代小説を出されてます。
こちらは勝海舟をメインに据えたもの。
江戸城無血開城から、激動の世を生きた麒麟児の生涯を描く。
ビシバシ戦闘!というわけではないけれど、時代を変えようという男の熱い気持ちが清々しい。
あとその時代に少し詳しくなれる。
発売は2018年の終わりなんだけど、読んだのが2019年なんでね。

さて…
スゥー…(深呼吸)
さて…
ネタバレしたくなければ読んでから来てください。

私は一番好きな作家が冲方丁で、そして冲方丁にハマったのがマルドゥックシリーズ。
マルドゥック・スクランブル(全3巻)に始まり、そこへ至る過去を描いたマルドゥック・ヴェロシティ(全3巻)があり、そして未来へとつながるマルドゥック・アノニマス、その最新刊となる。
アノニマスは主要な登場人物が死にかけているところから始まり、彼がその状況に至るまでの過程を語るという形で進んできた。
そしてこの4巻で、語りを終えて、そしてそこからの未来が始まっていくことになる。
詳しくは読んでもらうほかないけれど、これまでの積み重ねがつながって、未来へと続いていくというだけで、俺はもう感極まってしまって、駄目なんだ…駄目だ…。
スクランブルで運命に翻弄されていた少女が、こうして自ら未来を選び、そのための戦い方を身につけて、そして最良の未来を目指すために、信念を守るために力を振るう。
今作は敵方の内情についてもかなりの分量を割いて描かれており、対立する存在をそれぞれ強烈に印象づけることでここから未来へと劇的に進行していくであろうことが容易に想像されてしまうし、その結果何が失われて何が残るのか、さりとてすでに定められている死の運命もまた確かにあり、悲劇が起きることを知りながらもそれでもその結末が少しでも前向きなもの、確からしいものであってほしいと祈りながら読みすすめることになり、その期待が後半の展開でまたどう受け止めて良いものかとわからなくなりながら4巻が終わってしまって頼むから5巻を早く読ませてくれという気持ちとこのシリーズが終わってほしくないという諦観の混ざった矛盾が今でも強く強くありこれをどう伝えればいいのかもわからないので長文芸に走るわけです。
最高ではあるものの、陰謀がそれはそれは入り組んでいるため、理解しようと努力するか「何か大変な陰謀があるな…」くらいの理解で諦めて読み進めるほうが良い。

異世界ファンタジー刑事バディミステリ。
独特の世界観ではあるものの、意外ととっつきやすい。
いわゆるラノベ感はさほど強くなく、何か軽くつまみたい、でもちょっと固めのものがほしいときにちょうどいい。
ただしシリーズがそれなりに続いている(最新7巻予約受付中!)ので、読み通そうと思うとちょっと気合がいる。
村田蓮爾さんの絵が性的。いいのか?

そういえば2019年だったねぇ!
世界的名著。
ハンス・ロスリング氏が、私達がいかに世界を誤解しているか、データで丁寧に教えてくれる名著。
名著です。
データで見てみると世界がどう良くなってきたのか一目瞭然。
古い価値観を変えてくれる名著。
名著すぎるので読んでいないと恥ずかしいかもしれない。読みましたよね?

すでに1回書評を書いたのでそちらも参照いただきたい。

ちなみにハンス氏はすでに亡くなっているが、Ted Talksで元気な姿を見ることができる。
話も面白いので英語の勉強がてら見て欲しい。
さらに本文中でも紹介されるギャップマインダー財団のサイトはある程度の英語が読めれば非常に面白いツールだ。
過去からの国別の人口や、GDP、出生率、寿命など、様々なデータを時系列に表してくれる。
突然自由研究をすることになったらここを探るだけで簡単に数テーマ作ることが可能だろう。

ネグレクトされていた少女を引き取った教師が四苦八苦しながら教育していく漫画。
そう言ってしまうと全然面白そうではないんだが、学ぶことの意義や人の関係について非常に示唆に富む良書。
漫画的にはもっと上手くなる余地があると感じるが、よくぞこのテーマを描いてくれたというところで拍手。
大人でも感じるであろう「なんで勉強するの?」「学校の勉強って何の役に立つの?」といった疑問にひとつの回答を示している。
私は2巻を読んで泣きました。

つづく


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