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デザイナーの3つの役割を、『Takramのプロダクトデザインとその裏側』を見て考えた話

会期を大分すぎてしまいましたが、表参道で行われていた展示、『Takramのプロダクトデザインとその裏側』にいってきました。

https://designart.jp/designarttokyo2024/exhibitions/7783/

展示内容は濃密で見応えがあった上(会期中3回通った)、4回のトークショーのうちの2回にも参加できました。展示物やインタビュー動画、トークの内容を通して自分の中でもデザインプロセスやプロダクトのデザインについて深めることができ、とても興味深かったです。

その中で特に印象に残ったのは、デザイナーがプロジェクトにおいて柔軟に動き、様々な役割を果たしているという点です。

展示を見ながら、私はデザイナーには少なくとも次の三つの役割が必要なのではないかと考えていました。
1. 伴走する人
2. 軸を定める人
3. 形に落とす人

これらの役割は、ただ物を作るだけではなく、プロジェクト全体を成功に導くために欠かせない動きだと感じました。それぞれの役割について、展示紹介されていた事例とともに紹介します。

1. 伴走する人

デザイナーには、プロジェクトに関わるステークホルダー(関係者)に寄り添い、時に彼らと一緒に走り抜ける「伴走者」のような役割があるべきだと感じました。
しかも、伴走相手は1人ではなく、その場その場でさまざまな立場の人の伴走者となることが必要です。

ビジネスへの伴走

たとえば、Takramが手がけたエアシェルフをはじめ、HASAなどのプロジェクトでは、他社との差別化を考える「ビジネス的な視点」が求められました。
市場での見え方や成功を模索し見据えつつ、ディティールも合わせて考えるバランス感覚が必要なのだと感じました。

エグゼクティブへの伴走

また、プロジェクトが経営者の視点とずれないようにするための取り組みとして、エグゼクティブインタビューという手法が紹介されていました。経営層と早い段階でコミュニケーションを取ることで、プロジェクト自体の目的を明らかにすることで、プロジェクト全体をスムーズに進めることができるのだそうです。

プロジェクトの始まりにはそもそも頼んだ理由があるはずで、そこを明らかにしておくことで現場との乖離が後々起こる、といったようなことを防ぎつつ、プロジェクト自体も芯をとらえたものになるということでした。

技術者の伴走

さらに、技術的な実現性に寄り添うことも重要です。たとえば、エアシェルフの開発では、アルミ押し出し材の選定や対荷重の検討といった「技術者目線」の課題にデザイナーが深く関わり、製品として形を作り上げていました。

LAVOTの椅子も、通常凹面の削りは難しいあたりの技術的制約を踏まえている

工業製品を作るということは大量生産を想定しなければならないということで、品質を担保する色味表なども作るそう

一つ一つは生で見ても本当に細かな色の違い

ユーザーの代弁者

伴奏とは違うかもしれませんが、ユーザーの使い心地や声に寄り添うことも大事だと感じました。

LAVOTのプロジェクトでは愛着を持って利用している人が多いこともあり、インタビューで熱量の高い意見が集まっていました。
このような声から離れすぎず、ユーザーの使いやすく使いたいものを捉え続けるのもプロジェクトメンバーの真に望んでいることの一つであり、伴走と言えるのかなと思いました。


2. 軸を定める人

次に必要なのは、プロジェクトにぶれない指針を与える「軸を定める」役割です。多くの選択肢や意見が飛び交う中で、「何を軸とするか」を見極めリードすることがデザイナーには求められていました。


軸を見つけるプロセス

印象的だったのは、コクヨとのプロジェクトのHASAのデザインです。ユーザーの自宅を訪問し、「使い続けられているハサミ」を観察することで、愛着や高価格帯でも選ばれる理由やインサイトを軸として見出していました。

インサイトを見つけるだけでなく、このようにしっかりとまとめることでクライアント社内で共有しやすく「伴走」の一つにもとなっていた印象


他社調査に頼らない重要性

トークショーの中で1番印象的だったのは「他社をどのくらい意識するのか?」といった質問でした。その質問の回答は「意識はするが、まず自社で軸を考え、極端に被っていないか、他社がいる中で世間でどのように見えるかを考える。他社調査から考えると、他社が変わると変わってしまうためまず自社の軸を決めるのが大事(意訳)」という内容でした。

他社を競合相手としてだけ見るのではなく、世間の一部として見て、自社のコンセプトや姿勢、メッセージから考えるこのスタンスは、デザイナーが軸を見つける人としての責任を果たすうえで参考になると感じ、この展示全体の中でも特に取り入れていきたいと思いました。

言葉にする

軸を元に、音や触り心地、キーワード、デザインの方向性が定められていました。特に形態的な内容も軸から定義しておくことで、このあとの造形部分の判断がデザイナーはもちろん、他職種にもわかりやすくなっており、造形の決定がしやすそうです。

当てはまるものだけでなく、ちがうものを定義するのも共通認識を作るのに良さそう

3. 形に落とし込む人

最後に、デザイナーは「形に落とし込む人」として、プロダクトを完成へと導く役割を果たします。見つけた軸を具体的な形として昇華し、ユーザーに価値を届ける段階です。

形を極める具体例

Takramの展示では、プロダクトの細部に至るまで追求する姿勢が印象的でした。たとえば、ハサミの触り心地や音へのこだわりです。持ち手の厚みやブレードの音を突き詰めることで、「心地よく、愛され続けるハサミ」を実現しています。

膨大なプロトタイピング
段階的にモックをつくる
組み立て工具に造形美

スタイルをつくる

また、タムロンレンズのデザインでは、ファミリー感を出すための寸法ルールや光沢の統一感が徹底されていました。これにより、一貫性のある美しい製品群が生まれています。

このスタイルにはコンセプトだけでなく造形的なシステムがあり、属人的にならず統一したスタイルでプロダクトが出せるよう定義されていました

まとめ

役割を意識することで、デザイナーは単なる造形の作成者を超えて、人や企業に浸透するアウトプットを生み出せるのではないかと感じました。
私自身も、今後この視点を持ちながらプロジェクトに取り組んでいきたいと思いました!

あと最近頑張っている3Dプリントもより打ち込んで、このような精巧なモックが作れるようになりたいです🔥

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