道が覚えられない

私は空ばかり見て歩いているので、道が覚えられない。

昔からどうして人より道が覚えられないんだろう、と我ながら不思議だったけれど、最近になって人から「あなたは空ばかり見ているから道が覚えられないんだよ」と言われて、すとんと腑に落ちた。

でもそれは不可抗力だ。
空があまりにも魅力的すぎるのがいけない。

嘘みたいに抜けるような青空。
水彩画のように流れる表情豊かな秋の雲。
雨あがりに染まる黄金の夕焼け。
ぷっくり太った満月に、ミステリアスな下弦の月。
いまにも手に届きそうないちばん星に、かなた向こうに散りばめられたオリオン座。
まるで世界が今この瞬間に始まったかのように神秘的な朝焼け。
運良く虹など見れた日には、心の中で大歓声だ。

いつもなにげなく空を見上げた瞬間、突然目の前に広がるそのとりどりの美しい芸術に驚き、圧倒されて、息をするのも忘れて見惚れてしまう。

それも、季節ごとにまた違った表情を魅せてくれるのだから、たまったもんじゃない。
ほんとうに心底、惚れぼれしてしまう。

私は空に恋をしているのだ。
もうずっと昔から。


たぶん死ぬまで、私は道を覚えられないな、と覚悟を決めた。



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