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生活保護受給者に収入が生じた場合

この春は久々に旅行にも行くことができ、言う事なし。上は海遊館での一枚。海に比べれば狭い水槽だが、魚たちは自由を感じているような気がして癒された。よく考えたら私だって小さな市で暮らす小市民だが、自由に生きている。水槽の中の魚たちとそれほど変わらないな。

つい先日、別の専門職から「生活保護を受けている方に保険金がおりたら、どこまで遡って保護費を返金する事になるのか?」と突然聞かれて戸惑った。社会福祉士だから知っていると思ったのだろうが、知らんよ、そんなこと・・。ちょっと赤面。多額だと停止または廃止になるのは容易に想像できるが、どこまで遡って保護費を返金するのか?自分の学習のためにまとめてみた。

費用返還義務


生活保護法第63条によると、「被保護者が、急迫の場合において資力があるにもかかわらず、保護を受けた時は、保護に要する費用を支弁した都道府県または市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」と規定されている。

収入認定


これも基本だが、収入認定されるものを確認しておく。働いて得た収入、年金や手当、援助、保険金(※)など、世帯に入るお金は原則的に全て収入として扱われる。ただし、香典など社会通念条収入として取り扱うことが適当でないもの」や、就学のための貸付金や奨学給付金などのうち、世帯の自立更生に当てられる額」は、保護費の減額に関わる収入としては扱わない。このように、保護費の金額決定の計算に用いる収入認定額を、最低生活費に充当する金額の意味で、「収入充当額」と呼ばれている。

この収入には、必要経費の実費控除があったり、働いて得たものについては必要経費の実費控除のほか勤労控除もある。それらを控除した後の残りが収入として認定される。ここで、収入ごとの控除等を確認しておく。

就労収入


就労支援も福祉事務所の役割であり、また障害を持つ方は就労継続支援を利用している方も少なくない。よって就労による収入は、生活保護世帯だからといって、全くないとも言えない。
原則、3ヶ月平均で収入認定額とするが、毎月の収入に変動が大きい場合は、毎月収入認定額を変更する場合もある。(私が担当しているケースも、変動があるたびに保護費の通知が送られてくる)
収入額に対して、実費控除、勤労控除が適用される。
まず、実費控除だが、細かく見ると勤労収入なのか事業収入なのかなどにより、違いがあるが、簡単にいう収入を得るための必要経費だ。例えば、社会保険料や通勤費用、原材料費、肥料代(農業の場合)など。
それを引いたのちに、勤労控除を差し引く事になる。この控除は、収入額4,000円刻みで細かい控除額が決められている。例えば、世帯の就労人数が1名だとして、月の収入が26999円の場合は、控除額が16,000円となり、収入認定額は10,999円となる。以下、一部のみ表で示す。
この通り、就労した収入は、いくらか手元に残ることとなり、就労意欲が削がれないようになっている。

※この続きも、延々とある。

年金、手当


年金は2ヶ月ごとに支給されるが、1ヶ月あたりの金額で収入として扱われる。これには控除等なし。

臨時的収入


保険金などの臨時的な収入については、それを受け取る際に必要な実費のほか、一律8,000円の控除がある。


よって、収入があれば、その分だけ保護費が減り、先に保護費を受け取ってしまった場合や、後から臨時的な収入が入った場合は返金することとなる。返金となる金額は、収入認定額による事になる。例えば、全く年金がなく生活扶助を7万円受け取っているAさんがいたとして、突然相続等で100万円受け取ったとしよう。その場合は、7万円の返金だけでなく、市が支出している医療扶助分などの金額も返金となる。さらには、それらを返金しても残額があることから、生活保護は廃止になると思われる。


保護の停止・廃止


上記、Aさんのように、多額の収入があった場合、保護を要しない状態となる。それが一時的なもので、概ね6ヶ月以内に再び保護を要する状態となることが予想される時や、保護を要しないと確実に言えない場合は保護停止となる。停止の場合は、収入申告の義務や家庭訪問は残るが、実質上の保護利用とはいえず、保険は国民健康保険に加入し、保険料と医療費の自己負担分は自分で支払うこととなる。また、安定した生活が6ヶ月以上続くと見込まれる場合は、保護の廃止となる。
このように、ざっくりと決まっているが、どの処分にするかは福祉事務所の裁量とされている。

費用返還はどこまで遡るのか?


さて、返還の話に戻る。上にも書いたが、「急迫した事情があって資力があるのに保護を利用した場合」に、返還となっている。よって、資力が生じた時点を基準として返金となる。例えば、銀行預金があるが印鑑と通帳が紛失しており、保護決定後に引き出しが可能となった場合などは、保護決定まで遡る。
保険金関連は、事故が起こった時点が「資力が生じた時」と見る。相続の場合は、被相続人が「死亡した日」である。このことは、東京都福祉保健局の「生活保護運用事例集2017(令和3年6月改訂)」に詳しく掲載されている。あくまで東京都のものであり、自治体によって多少は違うと思われるが参考にはなる。これに記載されている内容を元に、市の福祉事務所ともやり取りできそうだ。

私の担当していたケースでは、通帳に年金が振り込まれている、認知機能が低下しており引き出すことができず、後見人が就くまでの数年間の間ずっと保護費が支給されていた。後見人就任後、市から納付書が送られてきた。それを用いて返還すると通帳にはほぼ残らずであった。保護受給時点で年金がある=資力がある ために当然と言えば当然だが、少しショックを受けた。

また、63条に基づく返還は、支給決定自体は有効であり、支給決定の遡及取り消しは行わない事になっている。

まとめ

ちょっとした同僚からの質問により、返還についての理解を深めることができた。ソーシャルワーカー仲間にこのことを話したら、「そんなの『知らん』と返答したら良かったのでは?」と言われたが、プロと名乗るからにはやはり質問されたらスムーズに返答できるくらいの知識が欲しい。そのためには、このような機会に学びを深めることを疎かにしないことが大切。
しかし、ソーシャルワーカー歴長いのに、知らないことが沢山あるなんて。まだまだひよっこだ。

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