贈与ってむつかしい
贈与と聞くと、贈答品とか綺麗にラッピングされたプレゼントとか、仰々しいものを想像する人もいるだろう。
でもこの記事ではもっと日常的なことを書きたい。なんてことない日にもらったお菓子とか、突然おばちゃんからもらった飴ちゃんとか。そんな「誰かにモノをあげたとき、または誰かからなにかをもらったとき」にこみ上げた嬉しさや、なんとなく感じた違和感みたいなものを書くとする。
時系列も内容もバラバラ。気になるものだけ読んでくれて構わないよ。
コーヒー豆
本当にやっている、が伝わるのって嬉しいなと思った日。
知り合いのお姉さんがやっているカフェに行ったときのこと。
「ねるさん、どれが気になります?」
カウンターにはコーヒー豆の入った袋が4つ。
地方に旅行に行ったときに買ってきたものらしく、私におすそ分けしてくれることになった。
「えー、迷うなあ。どれも気になります」
「ちなみにいつも家で何グラムで淹れてます?」
「え、あ、18グラムです」
そう言いながらお姉さんはジッパーのついた透明な袋に18グラムずつ、コーヒー豆を入れてくれた。そして4種類のひとつひとつの袋に、コーヒー屋さんの名前、豆の産地、精製方法を書いてくれた。
「え、いいんですかこんなに?」
「はい。ねるさんはちゃんとおうちで淹れて飲んでくれる人って知っているので」
うちの子をちゃんと可愛がってくれる人、と言われたみたいな恥ずかしさと静かな嬉しさがあった。(貰ったのは他店の豆だけどね)
たけのこの里
「ねるさんこれ、よかったら食べて」
と同僚のNさんが渡してきたのは、たけのこの里。
「え、あ、ありがとうございます」
わたしは彼女と目を合わせず受け取った。
彼女が先に退勤した後、私と仲のいいKさんがまだ事務所にいることに気づいた。
「Kさん、コレあげます」
「お、いいの?ありがとう」
「貰い物ですけどね。私はコレ食べたくないので」
「え、なんで?」
「これくれたのNさんなんですよ」
「そうなんだ」
「で?」と言いたげな間を残しつつ、箱を雑に開けて袋を破き、パクパクとたけのこの里を食べているKさん。
「なんかたぶん『これでいつも仕事で迷惑かけていることを許して~』ってことでしょ?」
「そうかな笑」
「だからなんか受け取りたくなくて。でも、私が食べなかったらNさんの罪滅ぼしは私が受け取ってないことになるでしょ?だからKさんにあげたんです」
「ふーん。ま、よくわからんけど。色々大変やね」
それからも何度か、Nさんの罪滅ぼしお菓子はNさんの知らないところで無効化され、Kさんの胃袋へ吸い込まれていたのだった。
なんでもない日のケーキ
私は、1時間長く働かないといけない曜日が決まっている。
8時間と9時間ってそんなに変わらないって思うけど、のっぴきならない事情でやむを得ず残業をするのと、あらかじめ1時間長く会社にいてね、と決められているのとでは気の持ちようが全然違う。いや、どっちも嫌だけど。
9時間勤務の日、わたしは朝から憂鬱そうに朝ごはんを作り、コーヒーを淹れ、「あ~今日だるいな~」などと言いながら化粧をする。
今日だるいな、は家を出るまでに20回くらい言っている。
そんな日の夕方、母からメッセージが来る。
「〇〇でケーキを買ったよ!お仕事がんばれ!」
う、嬉しい。
自分のご機嫌は自分でとり切れないこともある。
こうやって気にかけてくれる人がいることがとても嬉しく、残り3時間、仕事をしてやらんでもないな(してあげてもいいよ、の関西弁)って気持ちになる。
誰かの買ってきてくれるケーキくらいで機嫌がよくなるくらいの機嫌の悪さ、に留めるくらいなら私にもできそうだ。
呪いのPC
「ねるさんにもそろそろパソコンを買ってあげないとあかんなぁ~」
と上司が言い続けて、3か月が経っていた。
いまのPCが使えないわけではないから「いずれ」の話なのだろうと思っていたが、その日は突然やってきた。
ある日、出勤するとデスクにノートパソコンの箱が置いてあった。マイクロソフト SurfaceのLaptop4、結構高いやつなのでは?と驚いた。
あとから出勤してきた上司にお礼を言う。
「これ、ありがとうございます」
「それ、ねるさんにあげるから」
「え?」
「プライベートで使いたかったら使っていいし、なんなら、ねるさんが会社辞めるとしても、返してとか言うつもりないから」
「あ、わ、わかりました」
一番PC業務が多い私に一番いいパソコンが与えられるのは納得できる。
ここまで課金してあげてもいいと思われている部下、と考えると単純に嬉しさもある。
でもコレってめちゃくちゃ "ハウ" なのでは…?
辞めたくても辞めにくくなっちゃうよね…?なんてことを、贈与されたSurfaceを使って書いています。
職場でのお誕生日祝い
「「「Tさーん、お誕生日おめでとうございますー!」」」
朝礼時。営業部のハタチそこそこのきゃぴきゃぴ女子たちにお祝いされていたのは、同じく営業部のTさん。
「わっ!ええの?ありがとう!嬉しいわ~!」
とちょっといいお菓子の詰め合わせみたいなのを貰って、お礼を言うTさん。
朝礼が終わり、私とKさんは事務処理をサクサクやりながら話す。
「Kさんもうすぐお誕生日でしたよね。女子たちにお祝いしてもらえるんじゃないですか?」
「どうかな。というか僕ああいうの嫌いだな」
「え、なんでですか?」
「祝ってもらえる人とそうじゃない人が出てくるでしょ」
「あー。確かに。女子たちと接点少ない人はお祝いされなさそうですね」
「この人は祝ったけど、あの人は祝われてないっていうの嫌で。だからやらない派」
そう言いながら私より先に必要な書類を準備し終わったKさんは、スタスタと事務所を出ていった。
たぶんKさんはお祝いしてもらえる側なのだけど、祝われたくないので気配を消しているタイプの人だ。
ボディクリーム
「ほんとにお世話になりました。ありがとうね。」
退職の日、同僚の女性・マリーさん(仮名)がくれたのは5,000円するビュリーのボディクリームだった。
彼女はアメリカと日本のハーフで、年齢は50代。当時28歳だった私からすると母親と同じくらいの年齢。マリーさんとは元々同じ部署ではなかったけど、コロナで人員削減とか部署統合とかなんとかがあり、いつの間にか同じチームの一員として仕事をしていた。
アメリカナイズドされたからなのか、年配女性の強さなのか、元々の性格なのか、彼女はかなり頑固で自分の主張を曲げない人として社内で有名だった。そんな彼女と同じチームで働くことを正直面倒だなと私も思っていた。
そして実際いろいろと面倒だった。でも、彼女にはできるだけ優しく接した。なぜなら私は、社内で必要な「英会話スキル」を持ち合わせていなかったから。
だから彼女が持ち込んだ面倒事も嫌な顔ひとつせず処理したし、その代わりに英語必要案件(主に海外からのお客様対応ってやつ)はお願いして助けてもらった。分かりやすくギブアンドテイクの関係だな。私ってなんか現金なヤツだなぁ。って自分で思っていた。たぶんマリーさんが英語の喋れない人だったら私に得はないと思って冷たくあしらっていた気がする。
そんな折に、会社を退職することになった私。マリーさんと会う最後の日、彼女は私に大きなビュリーの袋を渡しながらお礼の言葉をかけてくれた。
「ボディクリームなんだけどね、なんかたいそうな紙袋に入れられてしまって」
「えー!なんかオシャレそうな…!ありがとうございます!」
ビュリーの筆記体が読めなくて、その場でビュリーと気づかなかった私。
帰宅して、袋を開けてびっくりした。
たった数ヶ月、一緒に働いただけの私には高すぎる、素敵すぎるものをくれたマリーさん。
彼女を毛嫌いし、疎ましく思う人はたぶんたっくさんいた。
でももしかしたら彼女は、頑固に見えて、主張が強そうに見えて、本当は周りに迷惑をかけていることをとても気にしていたのかもしれない。
そんなことを思いながら、ありがたく高貴なサンダルウッドの香りのボディクリームを塗り、28歳の冬を越した。
おまけ「貼らないカイロ」
※ちょっと毒っ気溢れる、あとちょっと身バレしそうな内容なので有料にしちゃう。このお話が特別面白いとかではないです。
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