飲食店ホール(バイト)としての矜恃
大学に通っている間、
スペインバルのホールでバイトをしていた。
うちの高校は進学校()で
バイトは禁止されていて、
そのため高校卒業が決まった3年生の終わりから
大学に入学するまでの間で
地元の焼肉屋さんのホールでバイトをしていた。
俺のバイト経験はその僅かなものしかなく
大学生になっていざバイトをするぞと意気込んではみたものの
どのバイトも恐ろしさが勝って応募できずにいた。
チェーンの居酒屋やファーストフードは
客層や効率重視の働き方について行けそうになかったし
そのほかコールセンターやガソリンスタンドも
電話が苦手だからとか
外で働きたくないからとかで嫌遠していたし
販売員のバイトは職場が遠いことから諦めていた。
求人サイトや求人誌と睨めっこしていたものの
応募の一歩が踏み出せないまま7月を迎えた。
ある時、大学から家までの帰路、
一つ早いバス停でバスを降りて、歩いてみたところ
外観のおしゃれなスペインバルの前を通りがかった。
窓から見たところ4人がけのテーブル席が9つほど
カウンター席が4つほどの小さなお店。
個人経営の、あまり新しくないお店だった。
そこで俺の目を奪ったのは、店員がしていた、真っ黒なサロン。
腰から下だけのエプロンのことだが、
俺はそれに魅了され
このサロンがしたい!このサロンつけれるならここで働きたい!
そんな気持ちが湧き上がってきたのだ。
お店の入り口近くには黒板におすすめメニューが書かれていて
エスカルゴのアヒージョやパエリア、
スペイン風ピザのコカやチキンのディアボロ風など
田舎から出てきた俺の好奇心をくすぐるお洒落そうな品名がずらり。
何よりスペインの料理にはワイン、そしてシェリー酒、
それからサングリアが合うのだと。
未成年ながらお洒落アルコールに興味があった俺は
ますますその店が気に入り、
外をぐるりと回ってみた結果
見つけたのだ。
アルバイト募集の張り紙を。
時給や時間などは正直どうでもよかった。
お洒落なお店でかっこいいあのサロンをつけてお洒落なメニューを提供する
そんな自分の姿を想像しただけでワクワクしてしまい、
アルバイト募集の張り紙の写真を撮って
家に帰ってから食べログでそのお店のことを調べた。
評価もよく、レビューにはこの近辺で一番美味しいお店だとか
安くて美味しくて大好きな店だとか、接客がとても良いだとか、
かなり好かれているお店のようで
ますますそのお店で働きたいと思いを募らせ、
その日のうちに張り紙に書かれた電話番号にかけた。
初めて履歴書を書き、ドギマギしながら面接へ行った。
アルバイトの経験はほとんどないこと、
大学の授業が終わってからの出勤になること、
接客は経験こそ浅いが一応やったことはあるということなど
緊張しながら一通りの面接を終えた。
最後に何か質問とかある?と
そのお店の店長である女性から聞かれたので
俺はこう聞いた。
「あの黒いサロンは私もつけられるんでしょうか?」
店長はキョトンとした顔で
「うん、お店から貸すよ。つけてもらうよ」と答えてくれた。
面接を終えるとすぐに採用だと言われ、
早速その二日後からバイトに入ることになった。
このお店、このバイトとの出会いがなければ
人と話すのが嫌いで、接客はもっと嫌いで
ワインも好きじゃなくて、
美味しい食べ物もほとんど知らずにいただろうと思う。
このお店の店長とシェフ兼オーナーには
本当にお世話になった。
一番好きだった職場であり、
今でも一番大好きなお店だ。
4年間ほど働かせてもらって、
就職を機にそのバイトは辞めてしまったのだが
そのお店で教わった接客は他に経験してきた仕事でも大いに役立った。
バイトのOBになってからも
現役バイトの子が学業でシフトに入れない時など
たまに臨時バイトのサービスを介して
お手伝いに入らせてもらったりもした。
入りたてのバイトの子がいれば
僭越ながら少しばかり経験の長い俺が仕事を教えながら働いていた。
この記事は、入りたての現役バイトの子達に
仕事の手順ではなく、心持ちを伝えることがあるのだが
それをまとめるために書いている。
ちょっと予想外に長くなったので②に分けてしまおうと思う。
俺の好きなお店を
お客様にもずっと好きでいてもらうために
大事な心持ち。
俺も今後の人生で忘れずにいたい要素の一つだ。
続きは②に。
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