栗井

くちなし

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記事一覧

ずっと光を探していた、8月季。

8月10日。 引っ越しを控え、家の近くを散歩した。 思い返すと、私の命を引き延ばしていたものは案外たくさんあったのだと気づく。 マンションから見えるまばらな光、小さ…

栗井
9日前
5

ライブで泣いた話

そのままのはなし。 ピノキオピーというアーティストのライブに行き、気づいたら泣いていた。 OPに流れる愛らしいキャラクターたちを見て、 あぁこの子たちは彼に、みんな…

栗井
9日前
2

7月季。

パスタソースは好きだけど、パスタはそこまで好きじゃないので豆麺を買った。 ひとりでいると、あらゆるものから少しずつこぼれ落ちていく。 世界に溢れるものの中で、私…

栗井
1か月前
5

息を吸う

京都市内から1時間、京北の里山で1泊2日のリトリート体験に参加してきた。 見返してみると、自然がどこ見ても当たり前にきれいで全然写真を撮れていなかったな ねぇ、心…

栗井
2か月前
7

6月季。

長袖を着るべきか、半袖を着るべきか、 毎朝悩んで逃げるように長袖のブラウスに手を通す。 冷房がつき始めると自律神経が終わってしまってもうだめだ。 眠気よりも先に意…

栗井
2か月前
3

天泣

梅雨なので雨系のタイトルをつけよう、"しぐれ"がいいなと思い意味を調べたら秋冬の雨のことだった。 季節のことを書かなければいけない縛りはないけれど、季節の中で生き…

栗井
2か月前
6

5月季。

長期休みを過ぎ、風邪をした。 長く拗れた重たいもの、つい最近まで観ていた世界を救った勇者一行のアニメを思い出す。 優しい勇者が、病気で寝込んでいるエルフの手を握…

栗井
3か月前
3

病の季。

取るに足らない、 風邪をこじらせて嗅覚がなくなった。 大好きなレモンの果汁を直に嗅いでも、いつか見つかるだろうといくら吸いこんでも、なにも感じなくなった。 それ…

栗井
3か月前
5

4月季。

桜とともに意識が霞んでゆく。 花見をした。 桜を愛でる風情を、私はあまり持ち合わせていないが 枝が伸びすぎて地面すれすれに咲いている桜の散り際、の風情についてに…

栗井
4か月前
5

3月季。

あったはずの巣を目指して戻ってきたツバメが、行き先を見失って飛んできていた。そこに巣はなくてツバメは行ったり来たりを繰り返している。 凍えそうな寒さもなくなり花…

栗井
5か月前
3

2月季。

朝、静電気をくらいながら車を降りる。 あられが降った。 雪のように白く積もってはいないように見えるのに、歩くと地面からしゃりしゃりと音がする。 あられはすごく跳ね…

栗井
6か月前
8

1月季。

新年会に行った。ジョージアのワインを飲んだ。初詣に行った。山の上は雪と霙と雨だった。ターナーをみた。たくさんの感性と表現が集まる場所に行った。人知を超えた美味し…

栗井
7か月前
3

いばしょのおまもり

どうしようもなくだめになったとき 私の人に頼れない性格を加味してもそれでも助けてほしいと、 手を伸ばせるような人が東京にしかいない。 だから私は早く東京に出なけれ…

栗井
8か月前
18

肉まんと、

冬の寒い夜、1つのコンビニの肉まんを2人(多くの場合それはカップル)で分け合うという幻想が冬、もしくは肉まんの風物詩として世の中に擦り込まれたきっかけはなんだった…

栗井
9か月前
6

未必のいのり

(写真すべて:@manimanium) 今年の初めに、ある写真家の方と女の子が話しているのを聞いた。 「カメラの前にいる貴方の輝きが、光が、貴方に届きますようにと願いながら撮…

栗井
10か月前
22

花向け

「魔法を持っていて、たしかにそれはとても苦しかったです。 でも捨てたくはありませんでした。 私は必ず、それを好きになれると信じていました」 -- 奇麗な声で生ま…

栗井
10か月前
3
ずっと光を探していた、8月季。

ずっと光を探していた、8月季。

8月10日。

引っ越しを控え、家の近くを散歩した。

思い返すと、私の命を引き延ばしていたものは案外たくさんあったのだと気づく。
マンションから見えるまばらな光、小さな画面の中の 淡々と話す緑のメッシュのVtuber、身を引きちぎる思いで垂れ流していた言葉たち、

私はもう、世界に存在することへの重さで泣いていないし、喉が切れるような必死さで泣いてもいない。
今までずっと抱きしめられずにいた自分

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ライブで泣いた話

ライブで泣いた話

そのままのはなし。
ピノキオピーというアーティストのライブに行き、気づいたら泣いていた。

OPに流れる愛らしいキャラクターたちを見て、
あぁこの子たちは彼に、みんなに愛されてここまで来たんだろうなと思った。
そうしたらもう泣きそうになっていた。

このアーティストに対して、特別に好きという感情を持っているわけではないつもりだった。
ただ、中学生の時からよく聴いていた。
引きこもりをして、生きるこ

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7月季。

7月季。

パスタソースは好きだけど、パスタはそこまで好きじゃないので豆麺を買った。
ひとりでいると、あらゆるものから少しずつこぼれ落ちていく。

世界に溢れるものの中で、私に向けて存在しているものなど何一つないとおもうことがある。どれもが知らない顔をして、ゆるやかに排除されていく。

だけどこの感覚が間違っていることも、間違っていないことももう知っている。

自我が出ると傲慢になる、殊勝な人間でもないのに膨

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息を吸う

息を吸う

京都市内から1時間、京北の里山で1泊2日のリトリート体験に参加してきた。

見返してみると、自然がどこ見ても当たり前にきれいで全然写真を撮れていなかったな

ねぇ、心と体のつながり、そして食べるもの、触れるもの、すべてが自分を作るのだと優しくつきつけられたとき、私はどんな自分をつくりたいだろう。

柔らかくするどい問いかけが、つややかに首元まで迫っている。

6月季。

6月季。

長袖を着るべきか、半袖を着るべきか、
毎朝悩んで逃げるように長袖のブラウスに手を通す。

冷房がつき始めると自律神経が終わってしまってもうだめだ。
眠気よりも先に意識を飛ばしてしまうね。

傘を差して並んで歩く。
それは距離が縮まらない言い訳になるけれど、
保たれた距離の中で時折心が近づいたような気持ちになるあの瞬間を思い出すのが好きだ。

雨の日、自然の中・山の中の神社に行った。
傘を差したまま

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天泣

天泣

梅雨なので雨系のタイトルをつけよう、"しぐれ"がいいなと思い意味を調べたら秋冬の雨のことだった。
季節のことを書かなければいけない縛りはないけれど、季節の中で生きていることを前提として文章を書くことにしている。自分を守るためであり、守らないため。

季節から離れがちになる仲夏の候、
わたしはひとりの人間からちやほやされるという体験をした。
たった1日、ちかくで過ごしただけだった。

ただそれだけで

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5月季。

5月季。

長期休みを過ぎ、風邪をした。

長く拗れた重たいもの、つい最近まで観ていた世界を救った勇者一行のアニメを思い出す。
優しい勇者が、病気で寝込んでいるエルフの手を握って付き添っているシーン。

そんな映像を頭にかすめながら、私は一人、誰にも気づかれず、気づかせず、ただ誰にも移さないようという気概だけで仕事に行く。

心配してほしい人、しんどいよと言いたい人、もっと言えば手を握ってほしい人がわたしには

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病の季。

病の季。

取るに足らない、

風邪をこじらせて嗅覚がなくなった。
大好きなレモンの果汁を直に嗅いでも、いつか見つかるだろうといくら吸いこんでも、なにも感じなくなった。

それはまったく味がわからなくなったことと同義である。

まつぱの帰りに必ず寄るバナナジュース屋さんを無感情で素通りした。
悩み抜いて買ったバナナマフィン、海を見ながら食べたコロネ、顔の綺麗なお兄さんが奢ってくれた青黒いお酒の味、あの日の景色

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4月季。

4月季。

桜とともに意識が霞んでゆく。

花見をした。

桜を愛でる風情を、私はあまり持ち合わせていないが

枝が伸びすぎて地面すれすれに咲いている桜の散り際、の風情についてには思いを馳せたりする。

片づけをしながら、また秋ね、と誰かが言う。

その確実性の全くない約束の言葉の中に、きっと私も含まれているのだろうな、と遠くを見ながら考える。

買って行った少しいいところの手土産、

こういった場には数百円

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3月季。

3月季。

あったはずの巣を目指して戻ってきたツバメが、行き先を見失って飛んできていた。そこに巣はなくてツバメは行ったり来たりを繰り返している。

凍えそうな寒さもなくなり花粉の飛散量だけが気になる頃。
朝、洗顔のためにお湯を触り、初めて自分の手が冷たいことにきづく。

身体が、置いてきぼりになっている。
今までは自分の心にしか意識が向いていないあまり自分の体が蔑ろになっていた。
最近は自分の内側に意識を向け

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2月季。

2月季。

朝、静電気をくらいながら車を降りる。

あられが降った。
雪のように白く積もってはいないように見えるのに、歩くと地面からしゃりしゃりと音がする。
あられはすごく跳ねるので、掴むのが難しくキャッチする遊びをしていたら会社についていた。
というのは嘘。冷たく寒くてすぐに飽きてしまった。

ひとり遊びが得意な人はかわいいなと思うので、ひとり遊びが得意になりたい。

軽い気持ちでいった病院で、手術が必要な

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1月季。

1月季。

新年会に行った。ジョージアのワインを飲んだ。初詣に行った。山の上は雪と霙と雨だった。ターナーをみた。たくさんの感性と表現が集まる場所に行った。人知を超えた美味しさに触れた。
体調を崩した。心がひっくり返ってしまった。

最近は幸せすぎて、心がかけていく感覚をずっと忘れていた。
見えないふりと、なかったことにされていく心を留めておく方法を私はもうあまり思い出せなかった。社会人ってすごいね。
でもこん

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いばしょのおまもり

いばしょのおまもり

どうしようもなくだめになったとき
私の人に頼れない性格を加味してもそれでも助けてほしいと、
手を伸ばせるような人が東京にしかいない。
だから私は早く東京に出なければいけない、私に息をさせるために。

そんな思いで生きていた。

今月頭、東京に遊びに行った。
半年前に行ったバーで会った人たちに、また会うためだ。

そこではたくさんの懐かしい顔に再会した、
今回私を誘ってくれた人だけじゃなく、半年前に

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肉まんと、

肉まんと、

冬の寒い夜、1つのコンビニの肉まんを2人(多くの場合それはカップル)で分け合うという幻想が冬、もしくは肉まんの風物詩として世の中に擦り込まれたきっかけはなんだったのだろう。

残念ながら、私の肉まんは孤独の象徴である。
夜に予定もなく、中途半端な時間に寒さの中1人で家路についているとき、遅い時間であればあるほど、寒ければ寒いほど、私はコンビニで肉まんを買って、家までの道で歩きながら頬張ってしまう

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未必のいのり

未必のいのり

(写真すべて:@manimanium)

今年の初めに、ある写真家の方と女の子が話しているのを聞いた。
「カメラの前にいる貴方の輝きが、光が、貴方に届きますようにと願いながら撮っています」
そういったことを話されていた気がする。

「今はわからなくても、受け取れなくても、それでも写真は残り続けるから。受け取れる状態になったときに見返して、その光を、写真に込めたものを受け取ってもらえたらいい、その瞬

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花向け

花向け

「魔法を持っていて、たしかにそれはとても苦しかったです。
でも捨てたくはありませんでした。
私は必ず、それを好きになれると信じていました」

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奇麗な声で生まれたかった、私があの絵を描きたかった。
うまく笑える人間でいたかった。
なんでもいいから、わたしを外に出す手段が欲しかった。

憧れにはいつも届かなくて、
自力で作らなければあるはずのない特別を、わたしだけのとくべつを、
ずっと

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