見出し画像

「白玉屋恋願芝居賑図」の小話

こんにちは、あやはなです。
先日、銀座の歌舞伎好きの集まる小料理屋「しらたまや」さんと一緒に、大きな一枚の絵を描き上げました。4種類のグッズになって来月下旬から購入いただいた皆さんのお手元に届きます。
制作期間2ヶ月。こんなに時間をかけて一枚の絵を描くことなんて久しぶりだったので、とても新鮮で楽しい時間になりました。今回はその「白玉屋恋願芝居賑図」のちょっとした制作小話をさせて頂こうと思います。

発端〜「賑わい図」になるまで

4月、コロナウイルス感染拡大防止として、しらたまやさんは店舗営業の自粛を始められました。一方私は会社勤めを辞め、自宅で仕事ができるよう、HPを作成したりパソコン環境を整えたりと、あらかた準備が整ったころ。
フリーになりました!とSNSで呟いたところ、しらたまやの女将、しらたまさんから、すぐにこのお話を頂きました。何かグッズを作りたいので、絵を描いて欲しいとのこと。初仕事!しかも歌舞伎の!と喜び勇んで二つ返事でお引き受けいたしました。

せっかく初めてご一緒する仕事なのに、会ってお話が出来ないなんて残念…と思いながら、通話で打ち合わせをはじめました。この時点で、2人共もう何日も生で歌舞伎を見ていない状態です。お話を進めながらも「あの公演観たかったね…!」「ところであの時のあの公演さあ…!」と、抑えつけられた歌舞伎熱が漏れ出すように脱線を繰り返しつつ、どのような絵にしていくか、しらたまさんのイメージに耳を傾けました。

歌舞伎のグッズといえば、例えば有名な演目とか、江戸の粋なモチーフとかをあしらうのが王道かなぁなんて、私も最初に打診を頂いたときには、そんなイメージを頭の中で組み立てていました。
でもしらたまさんの頭にあったのはもっともっと大きな歌舞伎の世界。「歌舞伎を演じる人も作る人も見る人も、みんな楽しそうな、そういう絵とか、ワクワクして素敵だよね」と、しらたまさん。
いやぁそれは素敵…。江戸時代の芝居小屋の浮世絵とか、一ノ関圭さんの『夢の江戸歌舞伎』とかみたいな、芝居の熱や匂いを感じるような、そんなのが描けたらいいよね。しらたまさんの熱いパッションを受け止め、まずはイメージラフを作ってお見せしました。
最初にお送りした大ラフはこんな感じ↓

しらたまやラフ

役者は大きく、重力も自由。固有色や整合性にもとらわれすぎず、とにかく色んな人が芝居の空間を自由に楽しんでいる。そういう絵を描きたいことを伝えました。
しらたまさんも賛成してくださり「賑わい図」という方向性に決定!あとは楽しくネタ出しをしながらせっせと描いていく作業。昔からちまちましたものをたくさん描く絵は好きでしたので、はやく描き進めたい。
「しらたまさんも、思いついたことや、何か入れて欲しいシーンや人物がいたら、いつでもリクエスト送ってきてくださいね!」と伝えると、速攻で鳴り響くLINE。来るわ来るわ楽しい小ネタ!(笑)

「役者さんだけじゃなくて、裏方さんもいるといいよね」「お店の中にこういう人を描いて欲しい」「遠征の人もいたらいいね」「奏者はもう1人いた方がいいな」「劇場係さんも欲しい」他にもたくさん…(詳しくは実物で)。
採用不採用はお任せします^^なんて言われても、そんなの全部描きたいに決まってるじゃん!全部お答えしました。

実は最後に決まったのは、最初に描いた人たち

この賑わい図、「芝居のワクワク感」ということを大切に、歌舞伎を支える人や観客などをもりもりと描いていましたが、実は役者たちについて話し始めたのは、絵の完成直前、もう大詰めというあたりでした。

「そういえばまねきがあるんだけど、名前って書いた方がいいかな」
「書いた方がいいね。せっかくだから、名前考えようよ!

そう言って始まったのが「名付け会議」。絵に出てくる芝居は、多くの人たちに馴染みのある演目を選んだ、ということ以外は全く決まっておらず、出てくる役者たちにも細かい設定はありませんでした。
空想上の町と座組み、ということは決まっていましたので、じゃあ役者名も空想にしよう!と、しらたまさんと2人でアイディア出し大会に。
…なったはいいのもの……、難しい…!役者名考えるの難しい…!パロディやダジャレの名前って歌舞伎でもよく出てくると思いますが、見るとやるとは大違い。難しい…!あやはなはポンコツすぎて何も思いつきませんでした。
なんて役に立たないんだ…と思いながらぼーっとしてたら、しらたまさんがドドドっと5人分の名前を送ってきてくださいました。しかもどれも素晴らしい…。歌舞伎役者ぽい美しい響きと、役者のニンが見えてくるような個性が光るお名前!即採用です。

「この名前はこの役者ぽい!」
「二枚目はこっちよりこっちの人じゃない?」
「この名前は女方でしょ…多分ベテランだね…」

当初、看板に名前を入れるだけの予定が、どんどんキャラクターに個性がつきはじめました。
語感の良さや、それぞれの役者の立ち位置なんかまで気になりはじめ、9名すべての役者に名前がつく頃には愛着もひとしお…。最終的に、私も2名の名前を採用してもらいました。少しはお役に立ってよかったです(笑)。
ふざけすぎて笑いながらボツにした名前もいくつもありました。完成間際にこんなに盛り上がるとは思ってもみませんでしたが、寧ろここまで手塩にかけた完成間際だからこそ、出てきた愛着だったのかもしれません。とても楽しい会議でした。

しらたまさんにわがままを言って、グッズをご購入頂いた方へつけるポストカードを、この役者たちの勢揃い描き下ろしイラストにさせて頂きました。誰にどんな名前がついているのかは、このポストカードを見てのお楽しみです。グッズと合わせて楽しんで貰えると嬉しいです。

あっという間の2ヶ月でした

絵を描き進めては進捗報告をし、そして時々追加や添削。悩んだ部分は調べてもらったりしながら、あっという間に2ヶ月が経ちました。
やりとりは基本LINEだったのですが、時々お電話や、テレビ会議なんかでお顔を見ながらお話ししますと、しらたまさんが本当に本当に歌舞伎が大好きで、そして歌舞伎をとても大切に思っているんだなということを、改めてビシビシ感じました。
当たり前のことなのですが、歌舞伎を支える人って、われわれ観客も含まれているんですね。歌舞伎も、歌舞伎以外の演劇も、演じる人、作る人、見る人が揃ってこそ完成する文化なのだということ。そして400年、そのどれもが欠けることなく現代まで歌舞伎が続いていることが、一層尊く、今目の前にあることをとてもありがたく思えました。

2ヶ月間、ぎりぎりまで追加要素を加えながら、私も楽しく夢中で描かせていただきました。完成した絵を見ながら、この絵は1人だったら生まれなかったなぁ…なんて、皆さんに見てもらう前なのにもう感慨深いです(笑)。
ぜひ、歌舞伎を好きな人にイラストをじっくり見てもらいたいです。そして、しらたまさんと私でこれでもかと詰め込んだ小ネタをたくさん見つけて頂きたいです。
歌舞伎が好きな人だからこそわかる「あるある〜!」というシーンや、劇場にいるあんな人やこんな人、もしかして自分なのでは?なんて思っちゃう人物を見つけて、楽しんで貰えると嬉しいです。

本日はこれぎり〜。