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リアリティがない作品は、大きくふたつに分けられる。「処刑人」映画感想

リアリティがない。この言葉を作品に投げ掛けるとき、大抵の場合は褒めるとは反対の意味で使われることが多い。けれど、リアリティがないから面白い作品、というのもたしかにある。

「リアリティがない」作品は、大きくふたつに分けられると思う。不快に思うか、「もっとやれ!」と思うかだ。

リアリティがないということは、共感できないということだ。分からないから惹かれるということはあるけれど、共感を呼ばない作品は大抵不愉快で、つまらない。今朝読み終えた小説がそうだった。パコパコ寝る女主人公に「自分もそうだったらいいのに」とは共感できない。しかし、そんなの人それぞれだから、作品によって好き嫌いが分かれるのは当然だろう。

「もっとやれ!」と思う作品には、リアリティがないからこそのカタルシスがある。「現実では、こんなにうまくいかないよね」「こうなったらどんなにいいか(絶対にありえない)」というモヤモヤを、フィクションのなかだけでも解消させてくれる。それが、救いとさえ思えてくることがある。

昨晩久しぶりにみた犯罪映画「処刑人(原題:The Boondock Saints“路地裏の聖人たち”)」が、やっぱり最高だった。

本作は、敬虔なカトリック教徒のイケメン兄弟が“天からの啓示”を受けて悪人たちを葬っていくストーリー。「悪人なら殺しても構わない」という過激さの裏には「何より罪深いのは善良なひとたちの無関心だ」というメッセージ性もあって、しかしこの重たいテーマを深くは考えさせないテンポのよさが心地良いアクション作品だ。今みると、どこぞの団体が黙っちゃいないだろうなという問題作でもあるが。

ぶっちゃけ、リアリティなんてどこにもない。白と黒ではっきりわかれる主要人物たちも、屈強なマフィアたちをまぐれで秒殺してしまう兄弟の強運さも。だからこそ、あけすけなテーマでも「これは所詮、フィクションだから」と結末にぐっと感動できる。法で守られる悪人を、天が裁いて何が悪い?

けれど、そうやって好き勝手に安心して言えるのも、これが物語と知っているからにほかならない。それはときどき悲しくて、つくづく、物語はここではないどこかへ連れていってくれる扉だと思う。


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