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春の夢 ベランダのシャツ 舟ゆらり

言い訳がましいけど、決して眠かったわけじゃない。ダイニングテーブルに仕事道具を広げて、PCとにらめっこしていた。

視界の端で、ベランダの洗濯物が気持ち良さそうに揺れていて。ふとその奥に白い船が見えた、気がした。

海のない県に住んでいる。外に広がるのは、平凡な住宅街。正確に言うと、目の前は味気ない月極駐車場である。

なぜそう勘違いしたのかは謎だけど(決して寝ぼけていたわけではない)、二度見した先には白い車が白線に沿ってゆっくりと動いていた。

ああ、思えば昨日みた「ナイル殺人事件」の影響もあるのかな。舞台は、白い豪華客船。いつか船旅をしてみたい、これは長年抱いている夢のひとつだ。

手をとめて数秒ぼんやりしていたら、これってもしや俳句になるんじゃないかと気がついた。

今月読んだエッセイスト岸本葉子さんの「575 朝のハンカチ 夜の窓」がとても良かった。40代後半で俳句に目覚めた岸田さんが、俳句の面白さ、女性俳人の生活にまつわる40句をまとめた1冊だ。

入門書というより、ほっとひと息つきたいときにピッタリな読み物で、「俳句って気になるけど…」という私みたいな人を、見事“沼”に引き摺り込みかねない良書である。岸本さんが俳句について語った書籍はまだまだあるみたいなので、どんどん読破していきたい。

俳句、っというと5・7・5の計17音で作る言葉の芸術作品。ルールとしては、必ず季語をいれること。これくらいの知識はもともとあった。そして本書で「なるほど~」と思ったのは、俳句とはエッセイのように自分の想い(=メッセージ)を伝えるものではなくて、「もの」に語らせる芸術ということだ。

言葉が「主」で、自分は「従」。夢とか愛とか意味ありげな俳句は上手とはいえなくて、むしろ詠み手ではなく、読み手がその「もの」を受け取って、イメージを広げるものがいいという。そうなると、解釈違いというのも出てくるわけだけど、そもそも「自分語り」は俳句ではお門違いなのである。

日記買ふ 良き事ばかり 書くために 寺島ゆう子

本書で見つけた、お気に入りの句。「日記買ふ」が冬の季語で、私は来年に向けた期待感を覚えたけど、もしかしたらこの1年がとてもしんどくて、来年こそは…という考え方もできる。

短いからこそ、読み手それぞれに一番響く受け取りかたができるのかと思うと…めちゃくちゃ面白くないか、俳句って。

春の季語をネット検索して、一覧から「春の夢」が目に飛び込んできた。これを先頭に持ってきて、揺れるTシャツ? 渡る船? と残りの音をまとめていて、できたのが

春の夢 ベランダのシャツ 舟ゆらり

人生初の一句です。うーん、下五は「白き舟」もありかも。



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