神よ、私だけの小説を書かせてください。
ベッドに潜り込む時、横のテーブルに築かれた本のタワーが目に入る。定期的に片付けているつもりでも、気づくとまた山ができてる。
買ったことはずっと覚えていた。お酒でいい気分になったひとりの夜、えいやと勢いで購入ボタンを押した「ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門」。これまた唐突に気分がのって、えいやっとこの2日で読みきった。
楽しい読み物というよりも、1年かけて学ぶ教科書をいっぺんに読破したような感覚で、良いんだか悪いんだか……。けれど、小説の読み方への新しい気づきや、創作したくなる素敵な言葉を見つけた。
小説とは、ひとかたまりの嘘である
当然、小説は“フィクション”だから、現実に起こったことではない。作者が創造したものであり、<ひとかたまりの嘘>と言うことができる。どんなに酷い出来事や悪人が登場しようと、<これは本当のことじゃないから>と安心して物語を楽しめる。
けれど、物語が嘘っぽかったらどうだろう。「こんなことはあり得ない」「でたらめだ!」と読者が感じたら。嘘は嘘でも、読書中にそうと気づかせてしまっては、面白い小説とは言えない。
創作の技法について書かれた第4章では、人物造形やフィクションをあたかも真のように思わせる秘訣が明かされる。その内容をここでぶちまけるわけにはいかないが、ひとつだけ。
たとえば、名探偵。底知れない知識に読者は圧倒される。勇敢な探検家。彼もしくは彼女が伝える世界の美しさに読者は焦がれる。けれど、どんなキャラクターも、作家以上のことは何も知らない。そして作家自身も、自分で体験できることは限られている。
だからこその、ディテールである。先に引用したように、正確な細部を、ほんの少し語ればいい。正確、というのが重要だ。詳しくはp.381「数小節口ずさんで…あとは知ったかぶり」のコラムを読むと非常に勉強になる。
作家の祈り
創作をする人の原点は「書きたい」という欲求だ。しかし「もうすでに書けていればいいのに」と苦しくなることもある。いつの間にか、純粋な創作の喜びより、社会的な成功を夢見てしまうのは、珍しくないのかもしれない。
本書を読み終えたとき、月並みだけど「とにかく、書こう」という気持ちが湧いてくる。技法についても色々書かれてはいるけれど、自分の楽しみや喜びのために、まずは書こう。
そして本書、〆の文が最高に素敵なのだ。ここで引用しては読む人の楽しみを奪ってしまうだろうから、自分のノートに書き写すに留めた。
書きたいと思うなら、最悪でもいい。書き始めればいいのだ。
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