マガジンのカバー画像

小説【 Little Diamond 】

13
ファンタジー小説です。科学と魔法が混在する世界。人生を自らの手で切り開いていく若者たちの、挑戦と成長を描きます。 頼りなくて繊細で、それでいて柔軟で軽率な登場人物たちにワクワクし…
運営しているクリエイター

記事一覧

Little Diamond 第12話

前回のあらすじ 町の中で突然、何者かに襲われたユウトは瀕死のケガを負い、一緒にいたエミリは暴漢たちによって連れ去られてしまった。 宿屋の一室のような場所で目が覚めたエミリは、ゲストのような親切な待遇と謎の少年の言動に戸惑う。 一方ユウトは何とか一命をとりとめ、テレパシーによってエミリの連れていかれた場所をすぐに特定し安否を確認する。 普通なら騎士団に通報して奪還を依頼するべきだが……。 襲撃者たちの言葉から、王女と勘違いして誘拐された可能性が高い。 だとすれば、もし別

Little Diamond 第1話

プロローグ この世界では、魔法と科学が共存しながら文明を築いてきた。 念のため、魔法に関して馴染みのない方々へ解説すると、魔法への適性は生まれ持った感性であり個性であり、運動神経やコミュ力などと同じように個人差が大きい。 魔法が使えるかどうかは、遺伝的な要素が強いのである。 さらに細かく言えば、魔法力や魔法力容量、持続力やアレンジ能力なども違うので、ひとくちに「魔法使える」と言っても得意分野は人それぞれだ。 魔法適性のある者は全人口の1/3程度ではあるが、科学技術によ

Little Diamond 第2話

第2話 ユウトとふたりで2-1 私やユウトの滞在している宿屋は1階が酒場になっている。 町の中心から外れているせいで、周囲の人通りもそれほど多くない。 でもそのわりに、夜は常連客の集まる人気の店だ。 ただし酒場のお客が増えてくるのは、陽が落ちてから。 昼間は店を開けてはいるものの、お茶を飲みに来るお客がたまに来るくらいで、基本はヒマだ。 マスターは買い付けに出かけたり仕込みをしたり。 おかみさんは、お店や宿の部屋の掃除をしながらの店番。 酒場の忙しくなる夕方までは

Little Diamond 第3話

第3話 初戦!3-1 今朝は早起きして、すでに準備を整えて朝食をいただいていた。 「あーい!みんな~おっはよ~う!」 ユウトの間延びしたようなのんきな声が、2階から降りてきた。 緊張感のなさが、彼の持ち味だ。 今日は武術大会の予選、初日。 近隣の小さな町や村から見物客が訪れ、ククルの町はいつにない賑わいを見せていた。きっと今日はお店も昼間から忙しくなるだろう。 マスターも仕込みに余念がない。 私とユウトはもちろん、大会に参戦予定だ。 おかみさんがお店のテーブルを拭

Little Diamond 第4話

第4話 ユウトの作戦4-1 第3闘技場の近くまで行くと、係員の声が聞こえた。 「ユウトさーん!次の試合に出場予定のユウトさんはいませんか~?」 すぐに気付き、ユウトは手を挙げて小走りで駆け寄った。 「はいはーい!ここです、ここでーす」 「ユウトさん?もうそろそろ始まるので、テントにいてくださいね」 係員もそれほど切羽詰まった様子ではない。 よかった。遅刻したわけではなかったようだ。 「うい!了解ッす!」 ユウトもリラックスした様子だ。 「じゃあ、私は観客席から見て

Little Diamond 第4.5話

第4.5話(Side story) 魔法の作り方4.5-1 目覚まし時計と同時に起き、二度寝しないように窓を大きく開け放つ。 ああ。 今日もいい天気だ。 ……寒いけど。 布団で温まった体が冷え切らないうちにうちに着替えを済ます。 テキパキと魔法装備をピックアップし、持ち物を確認する。 今日は「仕事の日」だから。 普段ならギリギリまで寝てるし、自慢じゃないがオレは二度寝肯定派だ。 つまり、今日は特別に気合が入ってるってこと。 なんせ「魔法使い」としての仕事だ。

Little Diamond 第5話

◆前回までのあらすじ◆ 武術道場で最強を達成し、父に内緒で家出した王女ジュリア (15歳)。 魔法学校卒業後、上京するも目的もなく未だ就活中のユウト (18歳)。 2人は首都からほど近いククルの町の、宿屋を兼ねた酒場で出会う。 店の手伝いを通じて仲を深めていった。 そんなある時、国が主催する全国規模の武術大会に出場することを決める。 予選1日目、初戦をお互い無事に勝ち上がった。 5 見えざる毒牙5‐1昨晩はすき焼きをモリモリ食べていたユウトだったが、朝ごはんも変わら

Little Diamond 第6話

第6話 背中を預ける6-1 ……どれくらい経っただろうか。 ユウトが芝生の上で昼寝を始めてから、たぶん1~2時間ほど? 依然として死んだように眠っている。 不安になって、耳を近づけて呼吸を確認する。 ……うん、大丈夫。 ちゃんと生きてる。 日も傾いた午後。 少し高台に陣取ったおかげで、3つの闘技場の様子が遠目にだがよく見える。 4回戦目に私が出場予定の第3闘技場では、3回戦目が始まっている。 そろそろユウトを起こさないと。 軽く肩をたたく。 「ユウトー、そろそろ起

Little Diamond 第7話

7 突破の導線7‐1 「だぁぁぁぁーー!!!マジかーー!!!」 絶叫してガックリと肩を落とし、うなだれるユウト。 心の底では分かってはいたものの……。 私だってこんな日が来ないことを願っていた。 今朝の抽選でユウトとの対戦が決まったのだ。 ただし、今日ではないけど。 武術大会予選、3日目。 勝ち上がった12人が、今日からは3ブロックに分かれてのトーナメント戦となる。 それぞれのブロックの優勝者、つまりこの予選大会から3人に、本戦への参加権が与えられる。 ジュリア

Little Diamond 第8話

8 天敵8‐1 2人で闘技場のそばまで行くと、周囲はずいぶんざわついていた。 人が多すぎて舞台の様子を見ることができない。 黒い魔法使いとイカツイ鎧の剣士との試合……。 遠目に見た感じでは、にらみ合いが続いていたのだが。 背の高いユウトも背伸びしている。 ……と思ったら、足は地面から離れて30センチほど浮いていた。 「ゴメン、ジュリちゃん。手つないでもいい?」 「……へ?」 そう言って有無を言わさず手を取られた。 「バランスとりづらいんだよね、これ」 上のほうから

Little Diamond 第9話

前回までのあらすじ 父に内緒で家出してきた王女ジュリア(15)は、魔法使いの青年ユウト(18)と一緒に、全国規模の武術大会に出場することとなった。 首都から近い、ククルの町で行われた予選大会。 かつてこの国最強と謳われた母親仕込みの格闘技を武器とするジュリアは、大柄な格闘家、魔法忍者、詠唱系魔法使いを知恵と工夫で撃破していった。 一方、酒場と道具屋でバイトを掛け持つフリーターのユウトは、人を傷つけることを嫌う優しい性格ゆえに、苦戦続き。 しかし剣士やお色気ダンサー、

Little Diamond 第10話

10話 穏やかならぬ休日10‐1 武術大会、本戦出場が決まった翌朝。 あのドンチャン騒ぎがウソのように、とても静かな朝だった。 そう。昨夜は誰もが予想した通り、酒場では大宴会が行われた。 常連のお客さんたちはみんな、自分の手柄のように私の勝利を喜んでくれたのだ。 料理や酒を運んでいくと必ずという感じで「まぁ一杯」と言われ、その度にドリンクをいただくことになるのでお腹がいっぱいになってしまう。 もちろん私はお酒は飲めないから、ソフトドリンクだけど。お酒だったら真っ先に

Little Diamond 第11話

第11話 日常のカタストロフィ 11‐1 ユウト視点 今日は午後からみんなで武器屋に来ていた。 ジュリちゃんが注文した防具ができ上がったから受け取りに行く、って。 武器屋にあまり縁のないエミリは、好奇心から「私も行ってみたーい!」ってなって。 オレは特に用はなかったけど、1人で留守番もなんか寂しいから。 せっかくだからジュリちゃんに良さそうな魔法装備を考えてみようかなぁ……ってついてきたわけだった。 そう広くない武器屋の店内には、ありとあらゆる装備品が所狭しと山積