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Little Diamond 第4話


第4話 ユウトの作戦

4-1

第3闘技場の近くまで行くと、係員の声が聞こえた。
「ユウトさーん!次の試合に出場予定のユウトさんはいませんか~?」

すぐに気付き、ユウトは手を挙げて小走りで駆け寄った。

「はいはーい!ここです、ここでーす」
「ユウトさん?もうそろそろ始まるので、テントにいてくださいね」

係員もそれほど切羽詰まった様子ではない。
よかった。遅刻したわけではなかったようだ。

「うい!了解ッす!」
ユウトもリラックスした様子だ。

「じゃあ、私は観客席から見てる。頑張ってね!」
「オッケーまかしてー」

気軽な様子でひらひらと手を振り、テントへと入っていくユウトの背中を見送る。

もう後は、信じるしかないよね。
ジュリアはそのまま観客席へと向かった。

観客席というよりも、大きな階段のような「段差」が闘技場を囲んでいるだけだ。地面から直接生えているように見える。

無骨な石造りなので、堅いしキンキンに冷えてる。

もう11月下旬。動いているときは良いが、ただ座って観戦はツラい。
周りを見ると多くの観客はさすがにみんなしっかり着込んで、防寒対策を整えているようだ。

私はというと……動きやすさ重視の軽装、プロテクターの上に半袖パーカー、長ブーツははいているものの短パンであった。

コート持ってくればよかった。
寒さに気が付かないなんて、実は緊張していたのかもしれない。
ユウトのことも心配だったし……。

あ、そういえばユウトはちゃんと暖かそうなローブを着ていた。あれがこないだ言ってた「おばあちゃんのローブ」だろうか。

時折、冷たい風がびゅう、と吹く。
「さ……寒ッ」

思わず膝を抱えていると、スッと座布団が差し出された。
「はい、どーぞ!」
顔を上げると、小さな女の子。

見た感じ7~8歳くらい。
ゆるくウェーブのかかったロングヘア。
美少女というより美人という表現の似合う、大人っぽい表情を浮かべている。この国では珍しいプラチナブロンドの髪色が印象的だった。

「選手の方でしょう?そんなカッコじゃ寒いわよ。これは運営が無料で貸出してるやつだから、遠慮しないで」
妙に大人びた喋り方だった。

「あ、ありがとう」
「各テントに回収ボックスがあるから、帰りはそっちに返してね」

「はい、これも」
と、持っているカゴからひざ掛けを取り出し、肩とひざに一枚ずつかけてくれた。
「風邪ひかないでよ。試合、頑張ってね!」

天使のようにニッコリと微笑み、長い髪をなびかせながら少女は去っていった。

わぁぁ、なんか素敵な……お姉さん?

ともかく暖かいし、癒されるぅ。
大会運営部ってこんなサービスまでしてるんだぁ……。

こういう幸せは王宮にいたらきっと、わからなかった。

貸してもらったもふもふのひざ掛けに包まりながら、しばしほっこりして目を細めた。

4-2

そうしているうちに、ユウトがステージに現れた。
ちょっと緊張してそうな表情……。

相手は……剣士だ。
見るからに剣士然とした剣士が出てきた。

ゴテゴテした鎧を着こんだ重装備ではなく、動きやすそうな軽鎧、細身の片手剣を持った男だった。

特にこれといった変わったところもない。
「あんまり、パッとしないわね……」

しかし剣士は剣士だ。
これだけ装備を整えてるっていう時点でガチ勢である。

というのも、ジュリアは会場の様子から気付いたのだ。
この大会は誰でも出場できるから、ちょっとケンカが強いような輩も賞金目当てで出てきたり、何も戦闘技術を持たない一般市民が参加賞の「宿代タダ」のために出てきたりもしているようだ。

それらに比べたら失礼だが、ここまでちゃんとした格好の剣士ということは、それなりに修練を積んできている可能性が高い。

ユウトがこちらを見て、無邪気に手を振っている。

大丈夫かなぁ……切られないでよ……?
苦笑して手を振り返すも、内心ドキドキしている。

審判が前に出て、二人が向き合った。

「用意!始め!」

開始の合図とともに剣士は間合いを詰めてひと振り。

「おゎ!」
とユウトはギリギリでかわして間合いを取る。

ヤバい……!
思った以上にどんくさいかも?!

思わず立ち上がって、こぶしを握り締めた。

相手は次々と剣を繰り出し、間合いを詰めていく。
反対に、ユウトは追い立てられるように必死で後退している。

「もう!あのバカ!反撃しなさいよ!」

いてもたってもいられなかったが、どうすることもできない。

そうこうしているうちに、ユウトは闘技場の石のステージの端まで追い詰められ、しかもバランスを崩して転んでしまった。

……見ているだけで、鼓動が跳ねる。
一切攻撃もできずに逃げるだけで終わってしまうのか。

もしあれが自分なら、蹴りの一発でも入れてやるのに――!

勝ちを確信したのか、正面からゆっくりと歩み寄る剣士を前に、なすすべなく座り込むユウト。

まるで天敵に狩られる獲物のように。

剣は振り上げられ……。

す……と、ユウトが両手を伸ばして相手に向けた。
当然、何も持たない素手だ。

この切羽詰まった状況で、やめてくれ、とでも叫ぶのだろうか。

その時だった。
小さな光の玉がユウトの手からふわっと飛び出し、相手の顔の前で激しくスパークした!

「うわぁ!」と剣士は顔を押さえて叫んだ。

え、何?……何したの……?

何か一撃を食らわせたようだが、それがなんなのか分からなかった。

会場がざわめく。

そして次の瞬間。
剣士の体がすーっと滑るように横移動し、ドサッ。という音とともに、ステージの外へ落ちて、尻もちをついた。

「……へ?」
剣士は状況が分からずキョロキョロと辺りを見回した。

一瞬の沈黙――。

それから。
「勝負あり!」と審判の声。
一気に歓声に包まれる闘技場。

遠目でも分かるほど、ユウトはホッと胸をなでおろしていた。

私も同時に、無意識に止めていた息を吐き出した。

ユウトと目が合う。
ぐッ、と親指を立てて笑った。

私もホッとして、思わず頬が緩む。

握り続けていた手のひらは、いつの間にか汗だくになっていた。


4-3

控え席のあるテントに迎えに行くと、ユウトは嬉しそうに飛び出てきた。

「ジュリちゃん!見てくれた~?オレのカッコいいとこ!」
ニヤニヤ笑いで両腕を広げ、抱擁を求めてきたので反射的にかわす。
せっかく褒めてやろうと思っていたのにちょっと気持ちが萎えた。

「もう!マジで心配したじゃない!ちゃんとやってよ!」

「いやぁ~だってアイツすごい攻撃的だったからさあ。とりあえず逃げるしかないっしょ?てか心配してくれたの嬉し~」

馴れ馴れしく肩を組んで来ようとするユウトに、すかさずヘッドロックをかけてやる。

「考えてた作戦ってこういうことだったの?先に言いなさいよ!」
「いてて!先に言ったらドキドキが減るだろ~」

閃光弾で目をくらまして隙を作り、念動力で場外にポイ。
確かにこれならどちらにも危険はないけど……。

彼がこの先、この作戦を続けるつもりなら心配だ。

魔法を発動するための時間的余裕とか、そういうのって必要なんじゃないかな?
それに不意打ちをくらわすなら、相手の油断を誘うことが成功条件になってくる。

そう何度もうまくいくのかな……。

ぐぇ、とユウトが声を上げて降参したところで、係員のお姉さんがテントから顔を出した。

「お待たせしました、チェック完了です。波形審査も全く問題なかったです。初戦突破おめでとうございます!」

波形審査?
初めて聞く用語だった。

「波形審査って、何……?」
ユウトの首を離し、一歩下がってから聞いてみる。

彼は首の具合を調整するために、頭を左右に振りながら答えた。

「え~とね、そうだな、審査するのに波形を使うってことなんだよ。つまり……魔法のアレな」
「……は?」

毎度のことながら、ユウトの話は全く要領を得ない。

見かねた係員のお姉さんが苦笑しながら補足してくれる。

「波形審査というのは……魔法の使用があった場合に、それが本人が発動させたものかどうか、反則ではないかを魔法の波形から判定するものです」

「おぉ……!」
あまりにも分かりやすくて感動した。

「そう、まさにそれ……!」
ユウトも言いたかったことを代弁してもらって満足なようだ。
確かに、他の誰かが舞台の外から魔法を使っても、見えないと分からない。

「試合中、闘技場内の魔法波動は全てモニターしているんですよ」
そういって、お姉さんはニッコリ微笑んだ。

ユウトは「初めから知っていたよ」という風で、隣でうなずいている。

すごい。すごい技術!
目に見えない魔法をモニターするなんて、まるで魔法のようだ。

私は魔法に関して全く知識がないので、心底感動した。

こうして武術大会予選初日、二人はそれぞれに勝利を収めた。
テンションも冷めやらぬまま、宿への帰途についた。


4-4

ばぁーん!と酒場の玄関のドアを景気よく開け放って、ユウトは笑顔で叫んだ。

「たっだいまーー!!」

おかみさんはいつもどおり、明るく出迎えてくれる。
「二人とも、お疲れ様!どうだった?」
「もちろん、勝ったぜ~!……って、あッ。すき焼き!?」

食いしん坊のユウトはいち早く、カウンターの向こうの調理台にすき焼きらしき材料を見つけたのだ。

「うわ、もうバレた!」とおかみさんとマスターは目を合わせて苦笑した。

「これは、私たちからの参加賞。ジュリアもユウトも、よく頑張ったわね。参加するだけでもかなりの勇気がいるんだから。大したものよ」

すると、カウンターの端の席に座っていた男性客がぼそりとつぶやく。
「おまいらに勝てるくらいなら俺だって勝てたぜ……」

……なんかあの人、感じ悪ぅ。
ジュリアはなんかひとこと文句言ってやろうと思ったが、おかみさんがそっと手を挙げて制した。

おかみさんは彼から見えないように苦笑して見せた。

そしてふてくされる男のそばに立った。
「トマちゃん、そういえば前回もそんなこと言ってたじゃない」

トマちゃんと呼ばれた男は、グイっと盃をあおった。
「いいんだよ、俺は。表舞台には出ないけど、知る人ぞ知る、最強だからな」

「そうね、国に認められなくても、自分の強さは自分で分かってるもんね」

あれ……もしかして?
同じだ……。

私もそうだった。

思わずジュリアは声に出していた。
「もしかして、試してみたいんじゃない?本当に自分が強いかどうか、気になってるんじゃない?」

みんなが驚いてこっちを見た。

「自分の周りで最強になっちゃうと、嬉しいけど同時につまらなくなっちゃう。だから私も外の世界に……」

ドン、と男が机を叩いた。
「分かってるよ!……マスター、もう一杯」
とおかわりを要求し、頬杖をついて遠くを見つめた。

「俺だってそりゃ気になる。けどよ……どんな奴がいるのか正直分からねぇからさ。もしバケモノみたいなやつがでてきたら……」

私は思わずグッと身を乗り出した。

何も考えずに勢いで騎士養成所に初めて殴り込みをかけたときは、確かにそうだった。バケモノみたいなヤツがいっぱい出てきた。

「そう、負けちゃうかもしれない。けど勝つためにもっと強くなろって思うでしょ?そしたらまた上を目指して進める。だから楽しいんだと思うの」
負けて初めて分かることだって、きっとある。

そこでユウトがぽんっ、と手を打った。
「あー確かに。ハードル高いほど底力が絞り出せるよな~。たとえば進級がかかった試験の前日とかさー、身体は辛いのにいつもの数倍の集中力が……」

ん~、それちょっと話の軸が違わない…?
ユウトのせいで何を話してたんだかよく分からなくなってしまった。

その時、マスターがカウンター越しに声をかけた。
「すき焼きできたぞ~」

喋っている間に、テーブル席にはすっかり夕飯の用意がされていた。
テーブルの真ん中の凹みに着火剤の置かれた小さなかまどが設置されている。

そこへおかみさんがキッチンから持って行ったお鍋をかけ、振り返る。
「ユウトー、火、お願い」

「はいは~い、喋るライターがここにおりますよ~!」
ユウトはカウンター席から立ち上がりつつ横着に、魔法でかまどの火をつけた。

……魔法使いって便利ね。

日も暮れ、店には続々と常連客が集まり始めた。

先ほどのカウンター席の男性客は、ふてくされた様子で黙って飲んでいたが。

「トマちゃんもすき焼き食べなよ」
マスターがすき焼きを器によそって、彼に出した。

「え、いいの?」
表情がパッと輝く。

カウンター席の頭上のメニューボードには、いつの間にか「今日はすき焼き無料サービス!」の文字が書き加えられていた。

マスターはニヤリと笑った。
「もちろんだよ。みんなで祝ってやろう。あの二人の門出を」

ちょ、マスターその言い方……結婚式みたいじゃない。
とジュリアは内心ひいた。

だがそういうのは絶対に聞き逃さないのがユウトだ。
彼はすかさず席から立ち上がって号令をかける。

「はい、みんなグラス持ってー!……ゴホン。では、オレとジュリちゃんの新たなる門出を祝してー!」

……と、途端に店内がざわついた。
「え、なに?ジュリアちゃんと?どういうこと??」

ほら!ほらみんな何か誤解してる!
やめてぇぇ……!

「はい、かんぱーーーい!!」

賛否両論の入り混じる中、酒場でのすき焼きパーティは始まったのであった。


あとがき


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今回はユウトの初戦でした。
ハラハラさせてくれます。
わざとじゃないです。彼はいつでも必死です。

初戦からこれでは、
ジュリアの胃に穴が空きそうで心配ですw

次回は大会2日目。
一体どんな相手が出てくるのか。
ユウトのカッコいいとこ見れるのか?w

余談ですが、
カウンターでくだを巻いていた彼の名前は、トマホーク。
マスターの同級生で、かつてこの町の「ちびっこ相撲」で優勝した、正真正銘の猛者なのでした。

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