![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/116418507/rectangle_large_type_2_713c1ef0a4dd8dbdd9205cf6c6f1dd15.png?width=800)
Little Diamond 第1話
プロローグ
この世界では、魔法と科学が共存しながら文明を築いてきた。
念のため、魔法に関して馴染みのない方々へ解説すると、魔法への適性は生まれ持った感性であり個性であり、運動神経やコミュ力などと同じように個人差が大きい。
魔法が使えるかどうかは、遺伝的な要素が強いのである。
さらに細かく言えば、魔法力や魔法力容量、持続力やアレンジ能力なども違うので、ひとくちに「魔法使える」と言っても得意分野は人それぞれだ。
魔法適性のある者は全人口の1/3程度ではあるが、科学技術によって補われ、魔法は全ての人々の生活になくてはならないテクノロジーとして昔から活用されてきた。
しかし――、
全世界を巻き込む戦争によって、地球と人類は滅亡の危機に陥った。
科学兵器によって都市は破壊され、
生物兵器によって大地は汚染され。
「呪い」と呼ばれる魔法によって、
子供たちばかりを残して大人がほぼ絶滅するという悲劇が起きた。
技術は継承の糸を断ち切られ……。
大人たちは命の火が消える前にあらゆる記録を残そうとはしたが、結局、科学技術は500年は退化したと言われるほどの傷を負った。
この物語は、その戦争から約20年後。
復興も少しづつ進み、残された人々は各地に町を形成し、魔法技術がベースとなる新たな文化を築き始めていた。
第1話 始まりの場所
1-1
「いらっしゃいませー!」
おかみさんの元気な声が響く中、マスターは黙々とカウンターの奥で調理をしている。
酒場は夕方から次々とお客さんがやってきて、ほぼ満席の大盛況だ。
私は今までに経験したことのない目まぐるしさに、すでに頭から湯気が出はじめていた。
ここは王都から歩いて数時間の距離にある、ククルの町。郊外の田舎町ではあるが、首都の玄関口としてそこそこに栄えている。
私はジュリア、15歳。
今朝ここへ到着したばかりであったが、母のアドバイス通り、仲間を探すために酒場のドアを叩いた。
夫婦で経営しているこの店は、小さいながらも2階に宿も併設している。
無口なマスターと明るいおかみさんはとても親切で、訳あって身元を明かせない私であっても、快く受け入れてくれたのだった。
なぜ身元を明かせないのか?
……バレたら連れ戻されるからだ。
1-2
父は、先の聖戦で軍を指揮した英雄であり、この国の王。
王妃である母も、
当時彼と共に戦った1人ではあるが、それよりもこの国最強の武術の使い手として名を馳せた猛者である。
つまりひとことで言うと、王女なのだ。
優しく温厚な両親は、部下たちからの信頼も厚く、国民からの評価もそこそこ高いようだ。
愛情をたっぷり注がれ、何不自由なく大切に育てられたが、ただ王都の外に出ることだけは固く禁じられていた。
いまだ戦後の復興中である国内の治安は、依然として良くはない。
街から離れれば、モンスターや盗賊が人を襲うという話も度々聞く。
まだ私が小さかった10年前なら、さらに危険だったはずだ。
心配性で娘を溺愛する厳格な父には「可愛い子に旅をさせる」などという危険な賭けに出ることはできなかったのだろう。
小さな私は毎日、窓から外を眺めてはため息をついていた。
どこまでも続く空に羽ばたいていく鳥たちが、羨ましかった。
そんな娘を見かねた母が教えてくれたのが、武術だった。
父はもちろん反対したが「自衛のために」と母が説得してくれたのだ。
こうして、武術にのめり込むこととなった。
しかし自信がつくほど、外の世界に飛び出してみたくなる。
ことあるごとに、ワガママを言っては両親や警備の者たちを困らせていた。
そんなある日、母が言った。
母の運営する王都内の道場で最強になることを条件に、15歳の誕生日に「旅に出る許可」をプレゼントしてあげる、と。
もちろん父には内緒だ。
バレたら監禁されかねない。
けれど私にとっては希望の光だった。
それからは、来る日も来る日も鍛錬に励んだ。
時には騎士団の訓練施設に乱入し、訓練生たちを相手に腕試しも。苦手な勉強もなんとか頑張ったし、父の前ではおしとやかに振る舞った。
この国では15歳で成人とされ、社会に出ることができる。
大人になってまだ、こんなところに閉じ込められているなんて。
それだけは絶ッッ対に嫌だった。
辛い時はそんな想像をして、自分を奮い立たせながら。
そしてついに、自らの手で勝ち取ることができた。
「道場最強」と「自由」を。
母の支援と手引きで王都を抜け出すことに成功し、今朝やっと、初めての街にたどり着いたところだ。
いくら腕っぷしが強くとも、世間知らずの15歳の女の子が1人旅をすることが危険だってことくらい、私にだって分かっている。
だけど母に大見栄切った手前、家に助けを求めることだけは絶対に避けたかった。
自力で。自分の力で世界を歩きたい。
だから私は、旅に同行してくれる「仲間」を探すつもりで酒場へ立ち寄ったのだ。
……それなのに。
1-3
![](https://assets.st-note.com/img/1669943902381-ACueROi2i7.png?width=800)
酒場のフロアのあちこちでランダムに発生する、私を呼ぶ声。
「おい!ねーちゃん!ビールもう1杯!」
「焼き鳥まだー?
あ、ラーメンも追加で頼むわー。腹減ったー!」
「ジュリアー、お通し4人前できたよ!
持ってってー!」
酒場でのバイトは、思ってたほど簡単なものではなかった。
旅の資金は母から十分持たせてもらっていたけれど、それはあくまで初期費用。当然、自力で稼がなければすぐにお財布は空になってしまう。
だからここに着いて早々に、仕事を紹介してほしいとマスターに頼んだのだ。
昔は「インターネット」なるモノで広く職を探すことができたらしいが、今は直接頼み込んで雇ってもらったり、紹介してもらったり、現場でスカウトされるかでしか職を見つけることができない。
労働者と雇用主のマッチングは、いまだに難しいのが現状。我が国の重要な課題でもある。
……と習った気がする。
そんなわけで、酒場では仕事の紹介も請け負っているのが定番だ。
だから母も、まずは酒場で……といったのだろう。
だがマスターは渋い顔で言った。
「ここ最近は求人が入ってなくてな……もし良ければ、ウチで働くか?」
店舗の様子から察するに、けっして寂れてはいないし、マスターも悪い人には見えない。
ここで働くのもいいかも知れない。
私は意を決して答えた。
「私、酒場で働いたことないんですけど……あ、用心棒ならできるかも?」
……そんな経緯でこの喧騒の中にいる。
用心棒を兼ねたホールスタッフ。
しかし思っていたのと全然違った。
けれどよく考えてみれば、就労自体が未経験なのだから、どんな仕事でも同じなのだ。腕っぷしに自信があるからといって用心棒ができるとは限らない。ホールスタッフもまた同様。
……しかしそれ以前に、こんなひどい喧騒は想像すらつかなかった。
本当に、軽率だった。
そもそも「酒場」自体が初めてだったのだ。
みんなが大声で一斉に別のことをしゃべる。
誰もが遠慮なく絡んでくる。
とにかく騒々しい。
もう頭がパンクしそう……。
仕事どころではない……!
息苦しさに、
あえぐように大きく息を吸い込んだ瞬間、
世界がぐるんと回った。
平衡感覚がおかしい。
あれ、立って……いられない――。
「おっと!ジュリちゃん……無理しすぎだろ」
視界が急速に狭くなっていく中、
誰かが受け止めてくれた感触。
聞いたことのある男性の声だった。
誰だっけ――?
意識はそのまま、ブラックアウトした。
1-4
![](https://assets.st-note.com/img/1669602764144-jn6EQpqbi6.png?width=800)
鳥の鳴く声で目覚めた。朝日が心地よい。
ぼんやりした頭で、昨日の喧騒を思い出す。
あれは酷い環境だった……。
あ ……――!
私、倒れたんだった!
思わず飛び起きた。
宿屋の、自分のベッドだった。
時計を確認。
うん、ヤバい。間違いなく朝だ。
マスターがここまで運んでくれたのだろうか。
そのまま朝まで、グッスリ眠ってしまったようだ。
謝って、お礼を言わなくちゃ
慌てて部屋を飛び出した。
瞬間――!
ドンッ!
「うわッ!」
「ひゃ!」
誰かにぶつかり、小さな悲鳴がハモった。
そして尻もちをついた私に差し伸べられた、大きくて綺麗な手。
「ごめんごめん」という声が降ってくる。
見上げると、長い金髪にひょろ長い体躯の青年。
名前は確か……。
「おっはよ、ジュリちゃん。もう身体は大丈夫?」
にっこりと微笑む彼は……。
確か、昨日会った。
初対面から軽いノリで、馴れ馴れしく付きまとっていた奴だ。
デレデレしてて軟弱そうだし、第一印象は最悪だった。
ハッキリ言えば、あまり絡まれたくない類の男性だ。
「ユウト」と名乗っていた、はず。
「なんであなたがここに……?」
差し出された手はあえて頼らない。
スッと立ち上がり、警戒心をあらわにして尋ねた。
まさか、出てくるまでドアの前で待ってた、とかだったらちょっと気持ち悪い……いや、あり得る。などと思いながら。
「いやぁ、なんでってゆーか、オレもここの住人だからさぁ」
彼はそう言って、向かいの部屋を指さした。
は……はぁ?!いや……ぇ?
信じられなかった。
思わず二度見して、額を押さえた。
自分があからさまに嫌そうな表情になるのを抑えられない。
けれど彼は、気付いてないのかメゲない性格なのか、ご機嫌MAXだ。
「よ・ろ・し・くぅ!」
大事なことなのでもう一度言うが、信じられない。
かなりショックだ。
この風船のように軽い男が同じ宿に泊まっているとは。
にわかには受け入れがたい事実を確認しなくてはならない。
もつれそうになる脚に意識を集中しながら、マスターたちのいる階下へと降りて行く。
その後ろからユウトもへらへら笑いながらついてきた。
1-5
「あら!ジュリア大丈夫だった?おはよう」
朝から玄関の掃除をしていたおかみさんが先に声をかけてきた。
カウンターの奥で仕事をしているマスターは、ちら、とこっちを見て微笑む。
「おはようございます!……あの……昨日はごめんなさい、全然役に立てなくて……それに倒れちゃって」
素直に謝った。
本当に不甲斐ない。
あれしきのことで自分が倒れるなんて思わなかった。
「いいのよいいのよ!私の方こそ初日なのに無理させちゃってごめんね」
とおかみさんも謝る。
そして続けた。
「ゆうべはいいタイミングでユウトが来てくれて助かったわ~。倒れる寸前にナイスキャッチ!」
おかみさんはグッ!、と親指を立ててユウトに示し、ウインクする。
……え。今何て?
なんと、あの時受け止めてくれたのはユウトだったのか……!
ナヨナヨして、もっと使えない感じだったのに。
不本意に思いながらも、彼の意外と頼れる一面に驚いた。
と同時に、自身のカッコ悪い所を見られてしまった恥ずかしさに思わず顔を伏せた。
しかしおかみさんはさらに追い打ちをかける。
「あの後、そのままジュリアを部屋まで運んでくれてね。回復魔法かけてくれたのよー!親切ゥ!」
茶化すようにヒジでユウトを小突く。
「ははは!レディーに優しくするのは男として当然だろ~」
用意されたようなセリフで返すユウト。
いやそんなことはもうこの際どうでもいいわ。
部屋まで運ばれて、その上……!
回復魔法などかけられた経験がないだけに、ちょっぴりよからぬ雰囲気を想像してしまって、恥ずかしくて顔がほてった。
しかし相手がユウトであることを思い出して、ちょっぴり複雑な気分になった……。
それを察したのか、おかみさんが言った。
「大丈夫よ!あたしも立ち合ったから!レディーの部屋にオオカミと二人きりになんてしないわよ~!出るときにもちゃーんとカギかけといたからね」
「ちょ、オオカミって!え、そうなの?
オレって信用されてねぇのー?超ショックー」
「やーねぇ!信じてるけど、そこはそれ。ケジメは大事でしょ!」
ワイワイとにぎやかなやりとりを見ていると、
ユウトが悪い人には見えなくなっていた。
少なくともおかみさんには信頼されてる……と思う。
見た目はチャラいし言動もだらしないけど、意外といい奴なのかも。
勝手に誤解してた自分を反省した。
「あの……ごめんユウト……ありがと」
ユウトは嬉しそうに笑った。
◆ ◆ 第1話 おわり
あとがき
ありがとうございました!
最後まで読んでいただけて嬉しいです!!
今回が初の小説です。いかがでしたでしょうか?
もし良かったら、スキ、フォローをお願いします!
ご意見やご感想もお待ちしております。
まだ物語は始まったばかりです。
若干15歳で家出したジュリアの行く末は?
ユウトとの仲は進展するのか(笑)?
次回もぜひご期待ください。
▶Twitterでは
創作活動の進捗や、作品公開の情報などを発信しています。
続きが気になる方は、ぜひこちらもフォローお願いします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?