やはり俺のメタバース生活はまちがっている。1話

現実とは違うメタバースに来れば、俺は友達ができると思っていた。しかし、それは淡い幻想でしかなかった。

俺はいつものようにTLを流し見していた。すると気になるニュースを見つけた。ヘッドマウントディスプレイ、quest2新発売。VRなんてまだ解像度が悪くて発展途上の技術だと思っていた。偶然目に入ったネット記事にはVRChatというものについて書かれていた。現実に嫌気が差していた俺はすぐVRに飛びついた。現実に居場所が無い俺でも、別の場所なら居場所を見つけられると思った。

VRChatについてはある程度ネットで調べた。ヘッドマウントディスプレイを被り、サインインする。まずは日本人の集まるチュートリアルワールドに行ってみる。ミラーの前に人集りができていて、俺はそこへ向かった。そこには七、八人の人がいて、俺と同じ初心者にみんなVRChatについて説明をしていた。初心者は女性らしく、女性ユーザーは珍しいとのことだ。俺は次々とフレンド登録をしていき、その流れで初心者の女性ともフレンドになった。俺も一緒に初心者案内を受けてたが、同じ初心者でもどこかそのやりとりに温度差を感じた。そして俺は小さな絶望を抱くことになった。しかし、この小さな絶望は、このVRChatと男性ユーザーの根源的な問題点に気付いてしまったことによるものだったと後で確信することになる。

月日が経ち、おれは順調にフレンドを増やしていった。しかし、毎日顔を合わせたり、友達と言える存在はまだ作れていなかった。始めたばかりだからそんなものだと気にしないふりをしていたが、俺の心の中に黒いものが少しずつ、しかし確実に堆積し始めていた。

VRChatを始めて三ヶ月ほど経ち、毎日顔を合わせるフレンドも少ないながらできた。しかし、それでもどこか孤独を感じていた。やはり既に形成されている内輪にとって新参者は外側の人間であるという拭いきれない現実がそこにはあった。それは別に意図的なものではないが、やはり人間というものは集団になると無意識に内と外を作ってしまうのだろう。しかし、それも時間の問題だと思っていた。

ネットのなかで友達を作り年中行事を楽しみ、互いの誕生日を祝い、時には仲間たちに感謝の言葉を伝える。そしてその輪の中にいる者はそれに感動し涙する。しかしそこにおれの居場所はない。おれは常によそ者で、社交辞令の愛想と哀れな同情しか享受することしかできない。そこには深い心の繋がりはない。おれは一度もそれを体験したことがない。おれだけがそれを味わえない世界など、おれだけを排除する世界をどうして愛せようか。人は現実逃避をすると言うが、おれにはネットも他人も逃避先に成りえない。おれにとってはインターネットもメタバースも現実と同等に辛く厳しく苦しい世界なのだ。

身内で固まることの快適さは知っている。discordとかそんなもんなんだろうな。

実際内に入れればバカ楽しい。

ただこれ外から見てると恐怖でしかない。。知らない話題はもちろんだけど、知ってる話題でもどのレベルなのか把握できない。そして全員の顔色を伺わないといけない。それと話に飛び込むタイミング失敗したら大縄飛び失敗で解散だ。まあそれでも話し掛けないことにはどうにもならない。

それが俺がVRChatに下した答えだった。俺が現実世界で抱いていた他人との見えない隔たりというものは、結局ここにもあった。コミュニティ内にはやはりヒエラルキーがあり、下の方に埋め込まれてしまった人間はなんの吟味もされずにつまらない人間、話す価値のない人間と断罪されてしまう。複数人でいるときにはいいが、一対一の形であると俺の相手をしているフレンドは暫くすると別のところに移動してしまう。相手が別の会話の輪に移動すると、俺と喋っていたときよりも楽しそうにしている。そういう光景を見てしまうと胸の当たりがヤスリで擦られるように痛み、息が上がる。俺は人と仲良くしたくて、人と一緒にいたくて、楽しみたくてVRChatを始めたのに全然楽しくない。日常のストレスから解放されたくてVRChatをしているのに寧ろストレスは増すばかり。何が駄目なんだろう。何が間違っているんだろう。その答えは誰も教えてくれない。フレンドにたまに聞いてみても、「そのままでいい」とか「考えるな」とか「優しいんだね」とか、その場限りの無責任な耳触りの良い言葉でなだめてくるだけだ。そんな冷たい優しさでは孤独に苛まれている人間を変えることはできないのに。

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