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『変な家』は児童におすすめできる?

私は雨穴氏の大ファンです。

それこそ、彼(?)がギター演奏動画を出したり(ギターちょろちょんは本当に優しい音色なので聴いてほしい)皮膚おりがみを折ったり、部屋に無数の指が生えて混乱していたり、日本の片隅に存在する心優しい異形だった時からYouTubeを見続けています。
今や著作に『変な家』『変な絵』『変な家2〜11の間取り図〜』があり、そのどれもが映画効果も相まって大ヒットしています。

図書館でも予約でよく回って来るのを見ますし、映画を観に行った際には小中学生くらいの年齢層が多く入っていました。
映画館で子どもたちが上映中にスマホを見だしてライトの眩しさに目をやられたり、「俺怖くないし」とイキリ出したりと始終騒々しくて辟易したのはまた別のお話。

さて、映画化もされた雨穴著の『変な家』ですが、先日知人より子どもが読んで大丈夫な内容なのかという質問を受けました。
曰く、X上で学校司書からの「児童が変な家を学校図書館に入れてほしい」と意見があるが入れていいものか分からないという内容のポストが流れて来たそうで。

雨穴古参ファンを自称する図書館司書として真面目に、そして公平な目線から
・怖さ
・文章表現
・映画との差異
の3点から考えてみることにします。


『変な家』の怖さ
恐怖にはさまざまな種類がありますが、変な家はどちらかと言うとイヤミス寄り。
湊かなえ氏や秋吉理香子氏などの、どちらかというとヒトコワに近い感じですね。

映画版ではジャンプスケア(どん!と来てキャー!なあれです)が多用されていましたが、小説版は雨穴氏が「怖いものが苦手な方でも楽しめるホラーを届けたい」という考えで作品を作っているそうなので、恐怖による児童へのトラウマという観点では学校図書館や公共図書館の児童コーナーにある常光徹著の『学校の怪談』などの方がよほどトイレに行けなくなる類の怖さだと思います。

変な家の文章表現
変な家は、奇妙な間取りをもとに話が展開する都合上、小説内に間取り図などが多数あります。
また、モキュメンタリー方式(実際に起こった出来事を記録しているようにストーリーが展開するもの)で、電話でのやりとりという体裁をとっているため、
【例】
筆者 〇〇の件、何か気付きましたか?
栗原 どうも妙なんですよ。気付きませんか?
というように、シナリオのような文で話が進んでいきます。
活字が苦手な方にとって読みやすい小説です。

ただし、ある程度漢字が読める年齢層を想定して書かれているため、基本的にふりがなは登場人物の名前の読みくらい。
また後半からは横溝正史の因習村のような雰囲気を出してくるため、"妾"や"姦通"など、難しい語彙があります。
とはいえ、同じ因習村方向で現在はAmazonプライム配信もされているPG12アニメーション映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に比べるとエグさはゲ謎に軍配が上がる程度にソフトです。

映画との差異
恐らく学校司書さんに「変な家を入れてほしい」とリクエストした方は、映画から『変な家』を知ったのではないかと思います。
映画版『変な家』は、般若のようなお面を被った人に襲われたり、チェーンソーを持った老婆に追いかけられたりと、ジャンプスケアを多用していました。
筆者がひょんなことから奇妙な間取り図を手に入れ、建築士の栗原とともに謎を考察していくうちに一族の因習に触れる……というベースは同じですが、映画版はお化け屋敷や肝試しの方向に舵を切ったのだなぁと感じました。

個人的には、実際に読んでみてからなんか違ったと感想を抱くことにも意味があると思っています。
ですが、リクエスト者を小学生と想定した場合、読めるのは高学年で、かつ普段から学校で習わない漢字にも慣れている、ホラーミステリー好き。
そして予想される感想はあまり芳しくなさそう。
読みたいという子には、よほどの内容でなければ触れてみてほしいとは思っていても、予算との兼ね合いとかいろいろ難しそうです。

さて、『変な家』は児童におすすめできるかを
・怖さ
・文章表現
・映画との差異
の3点から考えてみましたが、学校図書館に入れるのは難しいかも、というのが図書館司書としての私の正直な感想です。

ただ、先ほども「実際に読んでみてからなんか違うと感想を抱くことにも意味がある」と書いた通り、私は児童への読書体験に対して、勝手な判断で大人の思う良書だけを押し付けるのは違うんじゃないかとは常々考えています。

なので、もしお住まいの地域に市民図書室があれば、そちらを利用する提案も手ではないかと思います。

公共図書館にももちろん所蔵はありますが、人気本はなにせ予約がすごい。
年単位で待たされることもザラにあります。

市民図書室は小中学校の一画などに設けられている地域市民に向けたごく小規模な図書室ですが、使用人口が少ないからか、意外と人気本が棚にあることも多いです。
管理者さんとお話をすることがありましたが、よく来る利用者の意見も取り入れて、新刊を購入、受入しているとのこと。
実際に2023年本屋大賞2位で高等学校課題図書にも選ばれた安壇美緒著の『ラブカは静かに弓を持つ』や逢坂冬馬著の『同志少女よ敵を撃て』など、私の働く公共図書館では1000件ほど予約がついていた資料も棚に並んでいて感動したものです。

読みたい欲はその時々で変わるもの。
読みたいという方には、なるべく熱が冷めないうちに触れてほしいですよね。
選択肢のひとつとして入れてみてはいかがでしょうか。

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