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【読了】正欲/朝井リョウ

正しい欲、と書いて「正欲」
何が正しい欲望なのか、なにが正しくない欲望なのか。
人間の内から湧き上がる感情に、本来、正しいも間違っているもないはずだ。

多様性の時代というけれど、本当に人間の欲望すべてを物分かりよく受け入れるわけにはいかない。社会というシステムを正常に機能させるためにも、人は法律という分かりやすい概念で線を引く。この線からこっちは踏み込まないでね。ここまでならギリセーフだよ。
当たり前だ。
極端な話、人を物理的に傷つけたい、傷つけることによって性的欲求が満たされるという人間がいたとして、多様性という言葉を免罪符にして好き勝手やられたら、社会は成立しない。

人が多様性を認める(この「認める」という表現もいかがなものかとは思う)と言うとき、そこには「自分にとって不都合がない範囲で」「社会の安全が脅かされない範囲で」といった見えない但し書きが含まれる。

では、世間から受け入れ難い嗜好を持って生まれてきた者は、どのようにして世界と折り合いをつけて生きていけばいいのか。
周りの人間が当たり前のように恋愛やセックスに夢中になっているのを横目で見ながら、そんなことでは決して満たされない自分の欲望を抱えたまま、彷徨い続けるしかないのか。

この作品は、多様性という言葉がはらむ脆弱さを足がかりとして、掘っても掘っても底が見えないテーマに切り込んでいる。
おいそれと答えは出ないだろうけれど、しばらくは考え込んでしまいそうだ。


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