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荒天航行

降水確率100%の日に出港した。
北風20knt前後。
数字だけならどうって事ない。
ただ、雨が痛い。それぐらい。
雨は痛かったけど、波は1mぐらい。
やっぱり、どうって事ない。
それが、率直な気持ちだった。

きっと、この気持ちが事故の元。

『何かある時は荒天時。』
そう、誰かが言っていた。

先人が亡くなった時はその通りだった。
エンジンが壊れたのだ。
風は20knt前後。
太平洋上の貿易風に比べたら大したことない。
(35〜40knt)
しかし、エンジンが壊れた。
それはすなわち、アンコントロール。
彼らのフネは
風と共に岸壁に打ちつけられた。

そんなことを、思い出す。

ほら。

余裕なんて思うから、風は上がる。
フネは揺らぐ。
進行方向に対して横から波が来る。
誰もいない孤独な航路。

天気予報なんて、予報に過ぎない。
そんな言葉を、思い出す。


常に最悪を考えて、準備する。
常に最悪を考えて、行動する。

太平洋横断は怖くなかったのか?
そう聞かれた時。
怖いと知らなかった、そう答えている。
しかし、その答えは愚答だ。


どんな場所か調べ、
どんな状況か知り、
最悪を考える。


人間は非力。
無知は無力。

怖いと思う事が大切だ。

200馬力のエンジン、4100回転。
時速25〜30knt。
風に煽られた瞬間、
何とも思わなかった我が心が、
怖いと思い出す。

それは、良い傾向だと感じた。

右手にスロットル、左手にハンドル。
風除けのシールドは雨水で滲み、
アクリル板越しは何も見えない。
左から海面を見通す。
流木が少しだけ波間から顔を出す。

後ろに振り返る、誰もいない。
スロットルを下げ、スピードを低速する。
流木を避けようと右にハンドルを切る。

反復状態(3500回転ぐらい)で進もうか、悩むけど。
波に持っていかれる。
だからこそ、あえての4100回転。

フネが飛ぶ。
波を弾く。

怖い、けど、楽しい。
ドキドキとワクワク。

そんなことを繰り返すうちに、
港へ近づく。
何度か流木を見つける。

ゆっくりと入港する。

着岸したら、ウソみたいな凪だった。
あれは空想だったのではないか。
そう思うほどに、波もなく。

水面を眺めながら、
また海へ出たいと思った。

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