見出し画像

私達にサッカーを観戦させて。−映画『オフサイド•ガールズ』

『オフサイド•ガールズ』

2006年 88min
原題 آفسا‌يد
英題 Offside
 監督は『白い風船』でカンヌ映画祭カメラドール賞を受賞し、『これは映画ではない』『人生タクシー』等を手がけたジャーファル•パナーヒである。(ジャファル•パナヒと言われることもあるが、ペルシア語的にはこの読み方が正しい、はず。)
 2006年、イランでは女性のサッカー観戦は大統領により認められたが、国内からの大批判の末、最高指導者ハメネイ氏にも否定されたことから、事実上は禁止されているようなものであった。もともとイスラーム教の教えにより、女性はみだりに家族以外の男性と顔を合わせたりすることは許されないことだった。サッカー観戦ができなかった、というのは正確に言えば、家族以外男性達が集まる〝公〟の場で観戦することが許されていなかったということだ。現に、登場人物には自信がサッカープレイヤーであり、女同士の試合の観戦はできると言うシーンがある。
 ドキュメンタリー調で作品は描かれており、試合の喝采などにより臨場感満載である。

映画あらすじ

と、このような前置きはさておき、『オフサイド•ガールズ』は2005年に行われた実際に行われたイラン対バーレーン戦を舞台にしている。
この物語の主人公は、そのイラン代表チームをどーーーーしても、直接応援したいサッカー女子達なのだ⚽️📣
そして、彼女らに翻弄される男性兵士達の、公の存在であるにも関わらず、自分の本音が出っ放しなところも見どころの一つである。

物語は初老の男性が娘を探すため、イラン対バーレーン戦を観戦するためのスタジアム行きのバスを探す所から始まる。
多くのバスが行き交、どのバスの中も皆イラン戦で盛り上がっているようだ。
そんな中、目深に帽子を被り、誰とも関わりたくないような様子で佇む一人の〝少女〟
他のバスにも男装した女性の姿が見られた。彼女たちは慣れているようだ。男性達と共に窓から乗り出し、盛り上がっていた。

スタジアムに着くと、少女はいわゆる転売ヤーのもとへ向かい、観戦チケットを求めた。女だからという理由で不当な差別を受けるがチケットはなんとか手に入れられた。
不安げな表情をしながらも、いざスタジアム入り口へと進む。

※ここから先ちょっとネタバレあり※



結局少女は女だとバレた。(そりゃ↑こんな不安な顔してたらねえ、、)
咄嗟に逃げるが、兵士に捕らえられる。
連行される中、携帯で両親に連絡しようとするが、許されることはなかった。

ここからが驚きだ。
兵士は、彼女に携帯を貸して欲しいと要求する。何をするかと思うと、想い人に電話をかけ始めたのだ!!!((携帯普及率があまり高くなかったのだろうか))
そして折り返しの電話に、彼女が出てしまって兵士の想い人が勘違いをしてしまい、兵士は弁明で『ファリデとは違う、彼女とは別れた!』と言う。浮気していたようだ。めちゃくちゃ私的な様子である。兵士なのに!笑

そして、彼女が連れてこられたのは女性が数名の囲い どうやら少女と同じで、サッカーを観戦しにきた女性達のようだった。

その後も女性達は続々と連れてこられた。
それぞれの目的を持った、個性豊かなサッカー女子達⚽️

左の女性のように、兵士の格好をしてまで、観戦しようと試みる女性まで、、!

どうしてもサッカーの試合が見たい彼女達は、
せめて実況だけは聞かせてくれ、
ハーフタイムは混むからその前にトイレに行かせてくれ!!
などと頼み込み、、、

そんな自由な彼女達に翻弄される兵士たち。次第に彼等は自らの置かれている状況や思いなどを言わずにはいられなくなっていた。(←ここすごく面白いから見て欲しい)

果たして、男装をしてまでスタジアムにやってきたサッカー女子達は試合を見ることができるのか?できないのか?
イラン史上〝オフサイド〟な彼女らの運命や如何に!?

↓続きは本編を確認!!↓

オフサイド・ガールズ [DVD]

現在、ストリーミング配信はされていないようです。しかし、レンタルは一部店舗で行われている模様!!

2019年10月 イラン女性、サッカー観戦解禁

イラン女性、40年ぶりにサッカー生観戦できるように 発端となった女性ファンの悲劇
(2019.11.21 NewSphereより)
Iran football: Women attend first match in decades
(2019.10.10 BBCより)

 『オフサイド•ガールズ』上映から、約13年後、彼女たちと同じように、男装をしてスタジアムに観戦に来た女性が有罪判決を受け、焼身自殺をした。
 革命後、イランではこれまで幾度か女性のスタジアムでのサッカー観戦を認める動きがあったが、宗教法上認められないという見解上、世間的には認められていなかった。そのような時に起きた、この事件を受け、世界中のサッカーサポーターがイランにおける女性のサッカー観戦を支持した。
 世間の声に政府も耳を傾けざるを得なかった。そして革命以前のパフラヴィー朝以来、女性達は公に男性と同じスタジアムにいることが許されたのだ!

感動の瞬間 youtube BBC News Japanより

映画の伝えたかったこと

 この映画の良さは、西洋からの視点ではなく、イラン人によるイラン的な視点、それも女性の視点からよく描かれていることだと思う。監督がイラン人で良かった。うん。
 『オフサイド•ガールズ』は内部告発、いや女性の叫びのようなものなのだ。サッカー代表戦が見たい!そのために法をかいくぐってスタジアムに訪れる彼女たち。守られるべきとされながらも、強く、逞しく生きるイラン人女性の姿が描かれた作品だったと思う。
 ちなみにこの記事で紹介した少女が後半で発言する〝少女がサッカーのどうしても試合を見に行きたかった理由〟が泣ける。ボロボロ。ネタバレにならない程度に話すと本作品が作られるきっかけとなった2006W杯予選での日本戦で大勢詰めかけた観客席にて7名死亡したという事故が発生している。報道では6名の写真しか出されず、もう1人はもしかして、女性だったのでは?という疑問からこの作品を作ったということだ。

 イランといえば、宗教色の強い国というイメージがあると思うが、その中に内包された、イラン(ペルシア)特有の空気、文化をイラン映画に感じ取れると思う。(その目線は果たして、同じ東洋人としてなのか、それとも、外の文化の人間としてなのか。それを判断するのはまた別のお話、、、)

 是非、皆さんのおうち時間での見たい映画リストに加えてください!以上、仇捌映画でした^^

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?