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振り袖を着られなかった成人式

成人式は毎年胸が痛い。

成人式には出席しなかった。二十歳のわたしは本当は振り袖を着たかった。晴れ姿の記念写真も残しておきたかった。でもどちらも叶わず、あれから10年以上経っても胸がズキズキする。
成人式を半年後に控えた夏休み。わたしもほかの友だちと同じように成人式には振り袖を着せて貰えると思ってワクワクしていた。
お盆に実家に帰ったタイミングで「そろそろ成人式の振袖の予約をしなきゃじゃない?」となにげなく両親にお願いしたらあっさりと却下された。

え?

「振袖なんて高いしお金がもったいない、無駄だからダメ」。
当然のように成人をお祝いしてもらえるものだと思っていた。でもそうじゃなかった。


一生に一度の二十歳。そんな大切な記念でも振り袖NGなんだ。心の底から悲しかった。でも東京の私立大学に進学させてもらっている手前、両親には何も言えなかった。

女の子はみんな振り袖を着るから成人式には参加できないと思った。もちろん、振り袖じゃなきゃだめなんて決まりもないけれど、大勢の振り袖姿の女の子たちを前にして式に参列するほど強い心はもてなかった。

地元の新潟市は年明けの3連休に成人式が行われる。成人式には出席できないけど、その後にある中学校の同窓会と夜の飲み会には参加しよう。そう前向きに切り替えて、三連休に帰省した。当時の恋人がプレゼントしてくれた白いワンピースを着てわたしなりに精一杯おしゃれして同窓会へ向かった。両親が車で送ってくれて会場の近くに着くと、すでに同じクラスの親友4人が先に着いていた。車の中にいたわたしにみんなが気づいてくれたけど、そのとき目に飛び込んできたのは本当に華やかで綺麗なみんなの振袖姿。わたしの精一杯のおしゃれはただの薄っぺらい布でしかなかった。

同窓会でも振り袖を着ていないのはわたしだけ。そんな自分がみじめだった。たぶんわたしはその日おそろしく悲しい顔をしていたんだと思う。両親は妹の成人式には振り袖を着せてあげた。着物に合わせてあれこれヘアスタイルを考えて楽しそうにしている妹がうらやましかった。妹ばっかり…という気持ちはあったけど、振り袖を着れないことがどれだけみじめなことか身にしみていたから妹には振り袖を着てもらいたかった。

今のわたしなら二十歳のわたしに向かって、バイト頑張って自分のお金で振り袖着な!って言う。けれども当時のわたしはそんなことも思いつかず、まだアルバイトもしたことがなかった。

二十歳のときにただ諦めるしかできなかった自分が今もずっと傷ついている。その傷がなぜ大人になるほど深くなるのか自分でもわからなかった。

記念写真を撮るときにはいつもこんなの撮って何になるの?と思っていた。けど大人になって記念写真は後から振り返るために撮るものだとわかった。二十歳の瑞々しいわたしの姿は二十歳のときにしか残しておけない。だから貴重なんだ。小さいころ、わたしの家は定期的に写真館で家族写真を撮ってもらっていた。めんどくさいと感じていたけれど、まだあどけない自分の面影がどこにも見当たらないくらい時間が経ってからあのときの記念写真が特別なものになるんだ。
だから時間が経つほどに二十歳の自分の晴れ姿が残っていないことがこんなに悲しいんだ。それに気づいてから自分の記念写真を残しておきたいと思うようになった。近い将来結婚したときにはドレスか着物を着て夫となる人と並んで記念写真を撮りたい。そのときにはこんな写真必要?って思う。でもいつかおばあちゃんになったとき、アルバムを開いて結婚したばかりのしあわせそうな自分の姿を見てあのころを懐かしみたい。

こんな苦い思い出があるから、新成人の人たちには振り袖を着て成人式に参加してもらいたいと思うし、記念写真もしっかり撮ってねと言いたい。

数日前、感染症対策の専門家の岩田さんが新成人に向けて書かれたブログ「成人式には行かないで」が話題になっていた。書かれている内容におおむね賛成だけれど、わたし自身が出席できなかったことにずっと苦しんできたから、新成人に向かって出席するべきではないなんてとても言えない…。

そもそも式の主役に向かって、行くなと言うのは少々お門違いな気がして、本来であればそれは式を開催する行政に向けるべき言葉だと思う。でも政治や行政がまともな判断をしてくれるか? この1年疑問に思ったことは誰しもあるはず。それは違うのでは?と思ったときに自分の頭で考え、行動することが成人には求められることも確か。

成人式は開催して欲しいけど、それは今じゃないこともうなづける。ブログにも書かれていたように、家族への感染を避けるために成人式に参加しないというのは正しい。万が一、わたしから家族へ感染してしまうことがないようにこの1年実家には帰っていないのもそのためだから。

わたしの地元に限っていえば、中原市長は成人式を安全に開催できる時期まで延期すべきだったと思う。出席条件には県外在住者は2週間前から県内に滞在していることが含まれていた。でも県外に進学・就職している人たちにとってこれをクリアするためには年始に仕事や授業を1週間休む必要がある。それって現実的だろうか? なんなら県外在住者には出席してくれるなと言っているようなもの…。成人をお祝いする席なのにそんな仕打ちってアリ? 

今週末の新潟市は寒波で50㎝を超える積雪。JRは除雪が追いつかず9日10日ともに全面運休するほどの非常事態にもなっていて、危ない雪道を車で成人式会場まで向かわなければならない状態だった。決まっているから今更変えられないとはいえ、全部雪のせいにして中止にできるくらい厳しい状況だったと思う。どうか新潟市の成人式が安全に執り行われて、感染が拡大しませんように。

成人式の開催に賛否はあっても、成人を迎えたことは本来はただただ、喜ばしいこと。おめでたいことなはずなのになんだか後ろめたい思いをした新成人の方がたくさんいたことが心苦しい。だからこそ心から祝福したいし、自らをたくさん祝福してあげて欲しいと思う。


成人、おめでとうございます。
みなさんにたくさんの祝福が降り注ぎますように。

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