見出し画像

お母さんの愛はこれまでも、これからも

久しぶりの実家。

結婚して片道3時間かかる場所に住み始めたから、なかなか気軽に帰ることはできなくなった。

だからこそ、帰ってきた時は懐かしさと安心感を噛み締めることができる。

最後に来たのはちょうど一年前だったな。

整然として木洩れ陽が差す、静かで暖かな二階の部屋は、母の部屋。

部屋の隅に佇む衣装箪笥は、母の嫁入り道具。

母の歴史とも言える箪笥の引き出しを開けたその瞬間、私のタイムトラベルが始まった。

黄色の小さな、肩掛け鞄と帽子。

幼稚園生の頃はお母さんと離れるのが嫌で、登園時はずっと泣いていたなぁ。

茶色のくすみがかったピアノのコンクールの表彰状。

なかなか上達しなくて悔し泣きしながら弾いた曲を、お母さんはうっとり最後まで聴いてくれた。

アルミ缶には留学先だったオーストラリアでの写真とお母さん宛の手紙が。

空港でのお見送り、お母さんはずっと泣いていて、私の泣き虫はお母さんに似たんだって思った。

あ、よく見たらアルミ缶には『わたしのたからばこ』って拙いひらがなで書いてある。

お母さんと一緒に行った駄菓子屋で買った、おもちゃのネックレスも入っていた。

綺麗なアクセサリーを身につけて、お母さんみたいな大人の女性になりたかったんだよね。

母の歴史には、私が生きてきた証がたくさん残されていた。

あぁ懐かしいなぁ。

お母さん。

あれから一年だね。

今日帰って来たのは、母の一周忌を迎えたから。

別れを受け入れるのに、一年かかった。

お母さんに似て泣き虫な私は、正直、まだすべてを思い出にすることはできていないや。

でも、そのさみしい気持ちは、お母さんが私にたくさんの愛を注いでくれたから湧いてくるの。

思い出の品の一つひとつに触れるたびに、タイムトラベルが進む。

進むにつれて、私の心はこの部屋のように穏やかで温もりにあふれたものになっていく。

私は今、母の愛に包まれている。

ありがとうお母さん。

私は無意識のうちに、自分のお腹に手を当てる。

私の体に宿る新しい命。

母の愛は、続いていく。

これまでも、これからも。

―――――――――――――
今回のテーマはこちらより↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?