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本音と信頼

相手のために言ってあげるなんて嘘だね。
自分が言いたいから言う、それでいいんだ。

カヤノは41歳、人生の酸いも甘いも経験して今一番楽しいのは星読みというマニアックな趣味で繋がれた人たちと過ごす時間だ。

3,4年前からオンラインで繋がり始めて、例の疫病が落ち着き、リアルで会えることがとても楽しい。星の民たちは全国にいるものだから、それを理由に旅をして会えるのも嬉しい。

個人的に約束してカフェで話をすることもあれば、地方在住の民が東京に来るのに合わせて複数人で会うこともあれば、誰かが企画したイベントで会えることもある。自宅に泊めることもあるし、泊めてもらったこともある。

何度も会う人もいれば、オンラインでも接点が生まれない人など、その関係値のグラデーションは興味深いなとカヤノは感じていた。常に発信することは意外と難しい。SNSで見かけなくなることも多々ある。

だからこそ数年経っても互いの発信を見守り合えることが嬉しかったし、自然と繋がりも強くなっていった。

オンラインから繋がりが生まれることが多いが、ネット上で気になっていたとしてもすぐには会いましょうなんて言わない。電車で知らぬ人に気になっているからと話し掛けないのと同じだ。わたしのこと知ってますよね、なんて態度で接したら当然驚かれるし、引かれても仕方ない。

機が熟して、ご縁があれば繋がれる。その確信を元に世界に委ねることができるようになったのも、ここ数年のことだ。その前は、無理くりご縁を繋ごうとして失敗したことも多々あった。それもまた、対人関係を表す7ハウスに傷と呼ばれるキロンを持つカヤノらしいエピソードなのかもしれない。

さて、そんなカヤノが最近、意図せずよく一緒になる人がいた。仮にOさんと呼ぼう。2人で会ったことはなかったけれど、面白そうと思うイベントで重なることが多かった。気になる対象が近いのだろう。

同じ場に居合わせることが半年、いや1年以上続いたろうか。他に同じような人がいないこともあり、ご縁がある方だなぁくらいに思っていた。

そのOさんの様子で気になることがあった。複数人で話していても、いつも自分の話を始めて長い時間を使ってしまうのだ。

カヤノ自身、自分の話を本当はしたいけれど、全員で楽しく時間を使いたい思いや、勝手に遠慮する気持ちもあり、自分の話が出来なかった。

だからこそ自分の話をずっとするタイプが苦手だった。内心、羨ましく思ってスネていた部分もあった。

Oさんは、話し始めると止まらないし、誰かが話したとしても、切り口を自分に置き換えて話を始めた。Oさん自身の話をするならまだいいのだが、自分の親戚の細かいエピソードを話すことも多かった。

カヤノもそれを真剣に捉えすぎず、空気を読み、笑いながら軽く流したり、迎合するような対応をしてしまった。

全くの他人の話を聞かされることはカヤノにとって苦痛だったし、一度ならずも別のイベントで顔を合わせるたびに同じ話をされることがだんだんとしんどくもなっていった。そしてまた、Oさんと同じイベントに出くわした。

案の定、(この案の定と言うのはもしかするとカヤノがOさんにそうさせているのかもしれないが)Oさんは親戚の話をし始めた。数十分経った頃、カヤノは口火を切った。

「Oさんは、もうずっとずっとその話をしているよね。今日だけじゃなく、これまでにも。わたしはせっかくだから今日この場にいるみんなと話がしたいよ。でも、Oさんが話をするとその時間がなくなってしまうよ。」

口火を切る前は、Oさんのためを思ってとか、この場のみんなが感じていることを言葉にするのがわたしの使命だからとか、綺麗な言い訳ばかり自分に並べていたけど、そんなの不要だった。わたしはこんなの嫌だ。みんなで会話がしたいんだ。それを伝えれば良かった。

感情的にならないよう淡々と伝えたつもりだけど、声は少し震えたし、話しながら目も潤んできた。本音は伝えるのがとても怖い。場の主催者でもないカヤノ自身が空気をぶち壊してしまうのではないかととても怖かった。

でも、今日は本音を伝えるために来たのかもしれないと一方的でご都合主義な考えではあるけどカヤノは行動することを選んだ。

当然空気は一瞬で変わった。場はピリッと凍った。Oさんはハッとして、そして自分の中でも話をしすぎていると気づいていたと話してくれた。明るく話してはいるけどOさん自身も悩んでいること、そして、指摘をしてくれたことへの感謝も告げられた。受け取ってもらえて良かったとカヤノも内心ホッとした。

当然、受け取ってもらえるだろうって、信頼しているからこその本音だった。でも、実際に受け取ってもらえるかはわからなかったし、カヤノだけが感情を暴走させている可能性もあった。

例え、Oさんに受け取ってもらえなくても、わたしがわたしを大切に出来たからそれでいいとある種カヤノ自身がサレンダーしての行動だった。

本音を受け取ってもらえるって尊いな。感謝だな、とカヤノはまたひとつ、他者信頼を体験することができたのだった。

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