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乳がんになった私 #43「抗HER2療法開始」

HER2陽性乳がんは乳がん全体の15〜20%程度。

HER2とは、細胞の増殖に関わるタンパク質の1つで、このHER2タンパクが過剰発現すると、がん細胞が急速に増殖してしまう。

増殖力が強いHER2陽性乳がんは、以前は予後が悪いと言われていた。しかし、HER2タンパクを標的とする分子標的薬の登場により、生存率、再発率は大きく改善、治療効果は劇的に変化したそうだ。

その分子標的薬のひとつ “ハーセプチン” については、#34で触れた。薬の開発秘話が映画になっており、感銘を受けた。

“ハーセプチン” は2001年に日本で治療薬として承認されたが、さらに別の分子標的薬 “パージェタ” という薬が2013年に日本で承認された。

この2つの薬を併用することで、さらに治療効果は高まった。


正常な細胞まで攻撃してしまう抗がん剤とは違い、分子標的薬であるハーセプチンとパージェタは、HER2タンパクを狙い撃ちするため、副作用は少ないとされている。

副作用が少ないなら嬉しい!と思ったのだが、ハーセプチンとパージェタに加え、さらに別の抗がん剤も併用することが決まっていた。

その抗がん剤は、“パクリタキセル” というものだった。(同等の効果の薬に “ドセタキセル” というものもあるが、私の場合は “パクリタキセル” を選択)

このパクリタキセルの副作用に、私は後々悩まされる事になるのだが…。


今回の術前の抗HER2療法、ハーセプチンとパージェタは3週間に1回の投与を合計4回。そして抗がん剤パクリタキセルは1週間に1回の投与を合計12回行う。

なので、3週間に1回は3種類の薬の投与で、それ以外の週はパクリタキセルのみの投与となるわけだ。

毎週通院して点滴を受けないといけないのはスケジュール的にも精神的にも大変そうだなあと思ったが、全てはがんを治すため。やるしかない。


8月2日、入院病棟にて初めての抗HER2療法。

朝9時過ぎに点滴の針を刺され、心電図も装着。まず最初にアレルギーを抑えるための薬を5錠飲み、吐き気止めの点滴をし(吐き気はほぼないと聞いていたが吐き気止めは投与するのか!と思った)、10時半頃にいよいよ分子標的薬の投与を開始。

薬の順番はまずパージェタを60分、その後、ハーセプチンを90分かけて投与、最後に抗がん剤のパクリタキセルだ。

初回は時間をかけて慎重に投与するのだが、問題がなければ2度目からは時間が短くなるらしい。

EC療法の時も思ったが、強い薬が初めて自分の身体に入ってくる時の気持ちは…他で例えようがない。でも、簡単に言葉を選ぶとすれば、緊張と、願いだ。

パージェタが無事に終わり、ハーセプチンの点滴が始まった時、私は、映画「希望のちから」を思い出していた。

心電図や体温、血圧などをチェックしながらの長時間の点滴となるため、ハーセプチンを終えたところでいったん遅めのお昼ご飯を挟んだ。(カレーだった!)

そして最後のパクリタキセル。

全てが終わったのは16時半頃だった。長かった…!点滴に繋がれ横になっているだけだが、疲れた。

初回の抗HER2療法では、点滴中に副作用で高熱が出る人も少なくないと聞いていたので身構えていたのだが、私は終始何事もなく終わった。


翌日、無事に退院。これと言った副作用も今のところなさそうだった。


イベント出演は明後日。

しかし、その前に明日、現地で前日リハーサルが入っていた。

つまりスケジュール的には、8月1日に入院をし、2日に治療、3日に退院をし、4日には愛知から東京へ移動しリハーサル、5日がライブ本番というわけだった。


病院から帰宅し、さっそくライブの機材の準備や販売するグッズの準備などを終え、一息ついたところで、なぜだか急に泣けてきた。

治療や入院に対する不安や緊張、ストレスはどうやらあったようで、ライブ自体は楽しみなのだが、なんだか気持ちの切り替えが難しく、ずっと張り詰めていたのかもしれない。

泣いてスッキリして、翌日、私は元気に愛知を出発した。

(#44へ続く)
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