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観光記(第三章)

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#池田彩乃

充たされた道具で在りなさい

充たされた道具で在りなさい

これ以上わたしたちを隔てるものがないように。
そう願い「ひとり」という言葉も「ふたり」という言葉も、両掌で力いっぱい捻じ曲げてきた。生きたくて、死にたくて、この星に絶えず生まれる隔たりに首を縦に振れない。持っている持っていない、知っている知らない、そんなことを言っている場合じゃない。わたしには人が必要だ。そのこと以外に、必要な持ち物なんてほんとうは何ひとつないはずじゃないか。何を得ても失っても、あ

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2022.04.17

2022.04.17

手当てに使うと決めた10年間の内、丸2年が過ぎた。
30の年は愛について気づきを得て、怪我も病も得た。居る場所を求め京都に戻り、10年ぶりに接客業を始めた。31の年は暮らしが気づきと実践の場となった。愛を手渡すことと言祝ぎが仕事となり、身体の風通しが随分良くなった。自分を使うこと、あるいは何らかのお使いを託され、用いられることのよろこびを知った。

言祝ぎとは別に、書きたいものがある。
光のこと。

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よろこびをひらいてゆくこと

よろこびをひらいてゆくこと

わたしのよろこびをひらいてゆくこと
祝うことが祝われることでもあること
あなたがうれしいとわたしもうれしい
巡りゆくものの中でどこまでも惚けながら
この星にてよろこびをひらいてゆくこと

何か大事なことに立ち会っているのだと、わかりはじめてきたこの感覚を心に延ばしてゆくよう散歩した。
あなたを見つけた。
知らなかったわたしが見つかって、この世はすこし違う横顔を見せ始めた。それは時に今まで見てきたも

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宇宙における窓際の席より

宇宙における窓際の席より

わたしはずっと朝を待っていた。
あなたの姿、あなたの肌の色が鮮やかに見えるこのときを。
その目に映るものとして、待っていた。
朝陽を見ていると、眠っていたときのことを思い出せそうな気がする。見たくて仕方ない景色のことは、たとえこの目で見たことがなくても憶えているものだ。

そうしたいひとと出逢ってしまったらそうすればいいと思います。
どんなものであれ生きている他者がもたらすものを一番重んじるべきだ

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どこでもないここで、築くことを選ぶ

どこでもないここで、築くことを選ぶ

それでも、ここがあかるいと感じる。
光源がなにかわからなくとも、あかるいと感じられていることに嘘はない。
ここにあなたやあなたがいる。
いるというほんとうを抱き留める。
ここで転んで、ここで怒って、ここで泣いていよう。
あなたから見えるここで。
ここで惚けて、ここで笑って、ここで愛していよう。
どこでもないここで。
ここで、打ち明けていよう。

これから、おおきな失敗をするかもしれない。
初めての

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ご自愛ください、できるかぎり、たとえそれが愛だとわからなくても

ご自愛ください、できるかぎり、たとえそれが愛だとわからなくても

手紙の文末に添えられた「ご自愛ください」は祈りの言葉。皿の端のパセリなんかじゃない。自分がどうにかすこやかに機嫌よくここにいられるのは自力だけが成したことではないなと思い至ってからは祈られていることに自覚的になった。そんな気がするってだけでいいと思っている。

自分を愛するとはどのようなことを指すのか。
どこに心を置いて、どんな表情で、どちらに顔を向ければいいのか。わからなくて目を瞑って俯くことを

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