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『にんじん』に読む、淡々と続く日常の美しさを描くこと

ジュール・ルナールの『にんじん』を読み返しました。

私はずっと赤毛に憧れた気持ちを持っているのですが、美容室ではなかなか素直にオーダーができず、理想の赤毛に髪を染めることができていません。

赤毛の写真を見ていて、どうしてこんなに赤毛が好きになったんだろうと思い、ふと、自分が赤毛に特別な思いを抱いた理由を考えていました。

好きな赤毛のキャラクターといえば、『X-FILES』のスカリーとか、『ハリー・ポッター』のロン、最近だと『クイーンズ・ギャンビット』のベス。

でも、赤毛に一番最初に触れたのは、子供の頃に読んだ『にんじん』だったと思います。

虐待ともとられる内容の小説で、赤毛が母親から忌み嫌われる象徴のように描かれているものの、逆に私にとって主人公の赤毛がなぜか魅力的な存在でした。

何歳の頃に読んだか定かではなかったのですが、絵本の『にじいろのさかな』などでも、他の人と違うものを持っていると代償がある、となんとなく理解していたのでしょう。赤毛も、そんな特別な何かだと理解して読んでいたのかもしれません。

確かに残酷な描写はあるものの、にんじんが成長する姿に感動するような話――そんな印象でした。

子供の頃もきちんと読んでいたわけではないので、なんとなくもう一度読んでみようと思い手に取ったのです。

淡々と流れるにんじんの日常

ジュール・ルナールの『にんじん』は、赤毛であることで家庭の中でも浮きがちな少年が成長していく様を、幾つもの短編で描いている作品。

虐待とも言える母親の厳しい態度や冷たい言葉もあれば、家族と過ごす美しい日常を描いた部分もある。

しかし、大人になって読み返してみると、作品が描いているのはむしろ淡々としたもっとフラットな日常を描いているだけなんだなと再認識しました。

「にんじん」を検索すると、虐待や、主人公の行いなどが残酷で読みすすめるのが辛い、とか、毒親小説、とか残酷さにすごくフォーカスしたレビューが多くあります。

しかし、実際に読み直してみると、にんじんの視点は驚くほどフラットです。

母親の扱いや、動物に対する一見残酷に見える行動も、彼にとっては特別な意味を持たず、あくまでも「日常の一コマ」として受け止められています。残酷さが際立っているのは、読者が自分の価値観を作品に投影しているからなのかなと感じたのです。

子供の頃に抱いた幻想と現実のギャップ

初めて読んだ時、私はにんじんの赤毛が「特別な個性」や「ユニークな象徴」としての役割を果たしていると思っていました。まるで彼の苦しみが、特別な運命を背負ったための試練のようにさえ思えていたのです。

むしろ、物語全体に流れるのは淡々とした観察の視線であり、にんじんがその環境を克服する様子や、理不尽さを乗り越える強さを得る過程は描かれていません。

このフラットな視点は、家族愛や自己成長を期待する一般的な児童文学とは一線を画し、むしろ現実的な「家庭」の姿を写し出しているように思います。

その点からも、再読することで、日常を文学的表現で切り取った作品という印象が強くなりました。

にんじんの観察眼と「ただそこにある」世界

にんじんの視点は、時に生々しくもありますが、彼自身はそれを善悪や価値判断で見ているわけではありません。正直、彼の両親や兄妹がなぜそんな行動を取っているのかなども、ほとんど描写されていませんし、そのことによって「にんじん」が家族を嫌うこともない。

作中で、何度も自殺を試みるような描写もありますが、この自殺という何かメッセージ性が強く含まれそうな行為すらもなんでもないことのように描かれています。

水に顔をつけて溺死しようとして失敗する描写にしても、首を吊った横で、家族が談笑している描写にしても、世の中の非情をドラマチックとか、皮肉に描いているというよりは、単に、「そうだったから」そのように描かれているように感じました。

そのため、読み進めていくと、家族の中での孤独や、痛み、ちょっとした喜びや慰めが、全ての感情が互いに交じり合い、読者に静かに響いてくる。それは、にんじんが生きるフラットで連続的な「日常」そのものの美しさを際立たせているのだと感じます。ルナールは、この日常の一つひとつを慈しむように、観察し、描写しようとしているように感じました。

私自身、日常というものは自分の感情に関係なくフラットに続いていくものだなぁと最近しみじみ思っていたところだったので、その視点から文学的に美しく描かれた作品に少しどきりとしました。

この淡々とした日々の連続こそが、にんじんにとっての「生きる世界」そのもの。そこには苦しみも喜びも、そして慰めも、すべてがフラットに連なっていて、読者は彼の目を通じてその静かな日常に静かに包み込まれていくようです。



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