差別へのゼロトレランス(不寛容)な姿勢の重要性 -フェミニズムと企業のESG評価の視点から

オリンピックをめぐるさまざまな問題から、今改めてフェミニズムについて考える必要があると思い本を読む中で、2021年8月6日小田急線内で通り魔事件が起こりました。

犯人は、「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思った」と供述しています。

真相は追及されているところですが、報道される被害者の発言を踏まえると、女性を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)である可能性が懸念されます。

また、日本においても諸外国においても、コロナ禍で女性への暴力は増加傾向にあり問題視されています。このように社会情勢が不安定な中では、社会的弱者やマイノリティに対する暴力が連鎖し、深刻化することが指摘されています。

このような事件が起こってしまう背景には、フェミニズムで指摘される男性優位の社会構造、無意識的な家父長制の前提がまだ根強く残っていることが一因であると同時に、日本においてはそれに対する議論や反省が蔑ろにされてきたことが問題ではないかと思います。

政治家による女性蔑視発言、性暴力に対する無罪判決、組織内でのハラスメント…さまざまな問題が顕在化する中、差別は絶対に許されない=ゼロトレランス(不寛容)である、という明確なメッセージが社会においても組織においても非常に重要になっています。

差別に対するESG評価の厳格化

ESG投資指標の一つである「DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)」では、2021年の評価項目において差別に関連する質問を以下のように更新しました。

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出所:https://portal.csa.spglobal.com/survey/documents/CSA_Companion.pdf

オレンジ部分和訳:(設問の意図)
・ILOによると、個人のアイデンティティを形成する特徴に基づく差別は人権・労働侵害にあたる。
・強力な反差別の取組みを行う多様性のある企業は、イノベーションや効率性、生産性、従業員エンゲージメント、タレントアトラクション及びリテンションといった取組においてより良い成果を出すことが証明されており、反差別の取組みは、企業にとって重要な戦略的トピックである。
水色部分和訳:(企業に求められる取組み)
・差別に対するゼロトレランスポリシー
・全ての従業員に対する職場における差別・ハラスメント研修
・通報に対するエスカレーションプロセスの明確化
・差別的態度やハラスメントに対する是正措置の開示
・当該年度における差別やハラスメント件数の開示

このように、ESG評価の観点においても差別に対し、明確に意見表明を示すこと、厳格に対処することは非常に重要になっています

最近、欧米の企業では人権侵害や気候変動に対し、自分たちの意見表明を積極的に行う企業が増えています。もちろん日本企業においても、差別やハラスメントに対し取り組みは積極的に行ってきましたが、ゼロトレランスポリシーを明確にうたっている企業は多くありません。それは当然のこととして捉えて、あえて表明していない企業もあるかもしれませんが、それが差別やハラスメントに対する寛容な姿勢として日本の社会に根付いてしまっている気がしてなりません。

差別を絶対に許さない、という姿勢を企業も積極的に示すことで、社会全体のムードを形成していく一助となるのではないでしょうか。そのような企業が増えていくよう私自身も働きかけていきたいと思います。