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#13 悪いのは私?

新しい環境へ適応しようと必死に頑張った。足を引っかける子も、靴を踏んでくる子もいなくなり、それなりに幼稚園生活に溶け込んできたある日のこと。

母親に命じられて仲良くしていた章子と仲違い。元気のない私に気づいた母に質問された。

「章子ちゃんと喧嘩でもしたの?」

頷く私に母は

「じゃ、謝りなさいよ」

と提案してきたのだ。呆気にとられてぽかんとしていると

「聞こえなかったの?今から章子ちゃんに電話してあげるから、早く謝りなさい」

理由も聞かずに謝れって何?聞く前から悪いのは私だと言わんばかりの口ぶり。どうして私が謝るのかと尋ねたら

「こじれたら面倒くさいからよ。ママは章子ちゃんのママと仲良しなの。知ってるわよね?こんなことがきっかけでママが意地悪されたらどうするつもりなの?せっかく東京でお友達が出来たのよ。いいからごめんって言いなさいよ。それで解決するような単純なことでしょ、どうせ」

『ごめんなさいって言いなさい』は母の常套句だった。しつけでも善悪でもない。母の感情に基づいて定められる。それが母に対してだけではなく、いよいよ他人にまでも謝罪しろと言い出した。

どうして私の言い分を聞かないの?我が子の味方であろうとしないの?言い返す前に母はもう電話をかけていた。

「ほら章子ちゃん待たせてるから。早く!」

受話器を渡され、隣で立って聞いている母が怖くて仕方なく謝った。

素直に従ったと母は満足げ。そして私にこう告げたのだ。

「ママの言うことだけきいてなさい。ママの言うことだけが正しいの。ママが好きな人は卯月も好きにならなくてはいけないのと同じで、思うことがあってもママが謝れって言ったら今みたいに素直に謝るの。分かったわね?!」

分かんないよ。そんな間違ってるでしょう。でも言い返せば絶対に叩かれる。痛い思いはしたくない。痛みを避けるためには言いなりになるしかないんだ、私は。




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