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#18 嘘つきはどっち

当時は友達を招いてお誕生日会をするのが女児の流行りだった。母親が子供の好きな料理でもてなし、みんなで遊ぶ。子供なりに色々考えてプレゼントを渡す。友達がお母さんの作る何が好きなのかを知れるのも楽しかった。

私は母の作るから揚げが大好きでお弁当には毎回入れてもらっていた。私が好きなものを友達にも好きって言ってもらいたいという思いからリクエスト。何度も何度も念を押して確かめた。友達にも『ママのから揚げ美味しいの、絶対来てね』と付け加えて。

当日の朝、マッチ箱騒動に居合わせた母の知人がエプロン持参で駆けつけた。この人はお料理上手。『おばちゃん、卯月のために腕をふるうからね』その時まで手伝いに来てくれることを知らなかった私は驚いたがわくわくしながら完成を待った。

お待たせ!と運ばれてきた料理を見て絶句。母の手料理はそこに一つもなかったのだ。友達からは「ねぇ、から揚げは?卯月もしかしてまた嘘ついた?」主役にして非難の的。

みんなが帰ったあと、猛抗議する私に対して母は平然と答えた。

「頼んでもいないのに彼女が手伝うって言い張るんだもの、悪くて断れないわ。あの人お料理上手だし、だったら得意な人に全部任せたほうが早いもの。お料理美味しかったんでしょ。だったらそれでいいじゃない」

「分かったって答えておきながらやらないのは嘘つきって言うんだ」と食い下がる私に

「しつこいわね、ぎゃんぎゃん言わないで。その吠える声が大嫌いだっていつも言うじゃないの。そんなに食べたいなら今夜作ってあげるわよ、それで文句ないわよね。」

「約束したなら守らなきゃダメなんだよ。どうしていつも私を騙すの?何度もお願いしたよ『から揚げ作ってね』って。しつこい分かったって怒ったくせに、この嘘つき!」

「実際卯月はしつこいじゃない。現にこうして同じ話を何度も繰り返す。済んだ話をいつまでねちねち続けるつもりなの?しかも黙って聞いてれば親に向かって嘘つきだなんてよくも言えるわね、謝りなさいよ!」

会話が本筋からズレた方向に展開してゆくのが母の特徴だった。キャッチボールが成立しない。互いに向き合っているにも関わらず後頭部を直撃するような返球をされる、そんなやりとりになってしまう。

結局お誕生日会をすると決まった時から母は料理を作るつもりはなく、知人に丸投げする段取りを組んでいた。言えば私が怒るから当日まで隠していたと白状した。

「約束を破ったら友達に嫌われる。学校でも約束は守らなきゃいけないって教わるよ。それを破ったママが私にごめんなさいって言わなきゃならないんだよ」

「へぇー、どの口がそんな生意気言うのよ、どれ見せてごらん」

思いきり口元をつねられて会話は終わる。最低な母親。

そんな破綻しかけている母娘関係がついに修復不可能となる事件が起こるのだ。




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