見出し画像

#50 言い出したらひかない母

父の親類には知らせないが、大好きな自分の兄には病院から電話をしていた母。てっきり病院へ持っていく荷物のことで連絡してきたのかと。そんな報告はあとで聞くよと思っていたら

「それでね、お母さんのことを心配してお兄さんとお義姉さんが明日からきてくれるんですって。卯月、東京駅まで迎えに行ってくれるわよね」

「嫌だ」

「え?あなた自分が何を言ってるか分かってるの?冷たい娘ね。あんなに卯月を可愛がってくれたお兄さんに恩を仇で返すようなことよく言えたもんだわ、情けなくて涙が出る。よその子は親の言うことならなんでも素直に聞くのよ。どうしてあなたにはそれが出来ないの?」

言い返したいことは山ほどある。何が冷たい娘だよ、恩を仇で返すって意味違うから!よその子は親のいうことをきくって私を何歳だと思って話してんの?全ての言葉を飲み込んで言った。

「ねぇ、落ち着いて聞いて。もしかしたらお父さんは意識が戻らなくてこのまま死んじゃうかも知れないの。そんな時にどうして娘の私が傍についていられないの?なんでお父さんより伯父さんを優先させなきゃならないの?おかしいでしょう。それでも私を冷たい娘だなんて言うのなら、お母さんが自分で迎えに行ったらどう?」

乗り換えが出来ないのだから母が新宿から先に行けないのは百も承知。でもこれくらいは言わせてもらう。激怒した母は電話を切った。

何故母はこんなにも私を怒らせるのが上手いんだろう。これから父を二人で看なくてはならないのに、この母と足並みを揃える自信がない。不安でたまらなかった。

病室で喧嘩の続きをする訳にはいかず、荷物をまとめて気持ちを落ち着かせて再度病院へ向かった。何度も繰り返すが、母は一度口にした要求は通るまで絶対に引かない。父がこのまま亡くなってしまうかも知れないのに、私は東京駅まで行くことになった。いつだって私が折れることでしか事態は収拾しないのだ。

人の気持ちを想像することが出来ない母は、自分の意見が受け入れられたとばかりに要求をエスカレートさせてくる。それがまた更に私を苛立たせるのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?