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#9 習い事2

帰るわよと迎えに来た母に「今日はオルガンだよ」と告げると「いいの、卯月はもう辞めたんだから」

事情がのみこめずにぽかんとしていると母は続けて言った。

「いい?オルガンなんて習ったところで将来何の役にも立たないって、ママ知り合いに言われたの。よく考えたらそうなのよね。オルガンやってる大人なんて聞いたことないもの。だからそういう無駄なことは習う必要がないのよ」

「違う!私がやりたいの!」 

遊戯室に向かう章子を横目で見ながら地団太を踏んだ。

「どうして聞き分けがないのよ。よその子たちはみんな親の言うことをきちんと聞くのよ。何故それが卯月には出来ないのかしら。本当わがままで困るわ。」

「いやだいやだいやだー!」初めて我を通した私に向かって

「なんでそんな子供じみた真似をするのよ。そういうのママ大っ嫌いだっていつも言ってるじゃないの」

幼児に向かってそんな主張をする母。そう、母は子供らしい振る舞いをとても嫌がった。走り回っちゃいけない、はしゃいで大声をあげてはいけない、反抗してはいけない、話しかける時は周りの注目を集めないように小声で、外で遊ぶくらいなら家で本でも読んで静かに過ごして。甘えてまとわりつくなどもってのほかだ。母は私が体に触れることを極端に嫌がり、手をつなごうとすればピシャリと跳ね返して拒絶した。

「手だったらパパとつなぎなさいよ」

ママは私を要らないと思ってるんじゃないの?

帰宅後も私の機嫌は直らない。叩かれるのが怖くていつもなら諦めてしまう母の理不尽な言動をこの日ばかりはどうしても許せなかった。本当の理由は分かってる、私と一緒になって自分までオルガンをひかされることが嫌でたまらないからだ。

「お願い。オルガンやらせて」

言い張る私にとうとう母がキレた。

「しつこい!親に反抗するなんて冗談じゃないわ。よその子は親の決めたことに反論なんかしないのよ。謝りなさいよ!」

何この展開。なんで私が?何に対して?


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