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#41 世間とのズレ

小学生だった頃『家中のお掃除にこれ一本』という住居用洗剤のCMを見てこれ買って一緒にお掃除をしようと持ち掛けたことがある。考えること、今までと違うやり方に変えることを望まない母。思い出したように雑巾がけをする以外、掃除らしい掃除をしている所を見たことがなかったからだ。その時の母の返事は

「何言ってるの、ここは借家なの。自分の物でもないものをどうして綺麗に磨き上げる必要があるのよ。いつか家を買ったらその時は卯月が驚くほどぴかぴかにしてみせるわよ」

その時私は学んだのだ「そうか、借り物を綺麗にする必要はないんだな」と。

一人暮らしの部屋へ遊びに来た友人に言われた。

「ユニットバスが汚れてる。ちゃんと掃除してるの?女の子なんだからもっときちんとしないと」

そう注意されて赤面し、今さらながら母が良しとすることが世間と大きくズレていることを痛切に実感したのだ。母から授けてもらえなかった一般常識は恥をかきながら他人に教わってゆくしかない。

アヒルの子供が最初に見た動く物を母親だと認識する行動に似てる。と母を見てよく感じていた。最初の体験、最初の言動が母のルールとして設定されてしまうことが多いから。間違っていたと気づいたらそこで軌道修正すれば済むものを、母は絶対にせず押し通す。だからいつも喧嘩に発展してゆくのだ。

私が母のアスペルガーに気づくのはまだまだ先のことなので、融通が利かない、何度間違いを指摘しても絶対に改めない頑固な性格だと思っていた。最初の体験を正解として押し通すのなら、正しいことをしつけなかった家族が悪いのではないかって。

母がこんなにも理不尽で無責任なのはきっと子供時代に母を甘やかして育てた家庭環境のせいだと考えた。家族が母をダメにしたなら、私が変えればいいんじゃないか。心底努力すれば思いは伝わるに違いないと、この先何十年も無駄な努力を重ね続ける。

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