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バレンタインにはチロルチョコを

それは、今からちょうど8年前。
わたしが高校3年生の時だった。


センター試験が終わって、第一志望の国公立大の前期入試に向けてラストスパートだったこの時期。


通っていた予備校の自習室は、ゴリゴリ勉強する受験生で毎日あふれていた。

わたしも例に漏れず、毎日自習室にこもって勉強していた。



受付表に名前を書いて、いつもと同じ席に座る。

赤本と参考書とストップウォッチを並べて、朝から晩まで自習室の机にかじりついた。


みんなだいたい、いつも同じ席に座る。
自習室は私語厳禁だから、話しかけて友だちになるようなことはないものの、この席はあの子、あの席はあの男の子、という暗黙のルールみたいなものがあった。


わたしの指定席は、入り口すぐの通路側、端っこの席。おなじみのわたしの定位置。



お昼休みになれば友だちと休憩室でご飯を食べて、また勉強に戻る。誰かと一緒にご飯を食べている時だけは、自分は一人で戦っているんじゃないんだってちょっと安心できた。



いつものようにお昼ご飯を食べて自分の席に戻ろうと自習室の廊下を歩いていた時、ふと、目に留まった人がいた。


「あれ……?もしかして……?」


いつものわたしの定位置の斜め前、隣の列の端っこの席にいつも座っている男の子。

今まで気にしたこともなかったそこに座っている人物に、なんだか見覚えがあった。


あまりにも気になってしまって、入り口に戻って受付表を確認する。
その席の番号のある場所に書かれていた名前は、やっぱり見覚えのあるものだった。



夕方の休憩時間。一人で軽食を食べていたその男の子に、意を決して声をかけた。


「なぁなぁ、Sくん、やんな……?」


彼は小学校の時のクラスメイト。これが、6年ぶりの再会だった。

奇遇にも第一志望は、お互い同じ大学だった。

仲間がまた1人増えたように感じて、嬉しかった。





2月14日。バレンタイン。
私立大学の入試も終わっていよいよ本命の前期入試も目の前に迫っていた。わたしもみんなも、追い込みをかけるように机にかじりついて勉強をする、そんな時期。


お世話になっているチューターさんや、一緒に頑張っている友だちのために配ろうと思ってコンビニで買ったチロルチョコと言う名の義理チョコ。


ハッピーバレンタイン☆★お互い〇〇大学合格しよな!


付箋でそうメッセージを書いて、Sくんのいつもの席に無言でそっと置いた。



夜も遅い帰り道。1人で歩く道を、後ろから自転車に乗ったSくんが追い越して行った。

……と思ったら、わたしを見つけて引き返して来て。


「チョコレートありがとう!これあげるわ!」


お礼にもらったのは、おそらくSくんが勉強中に食べているのであろう別のチョコレート。


自転車に乗って颯爽と帰って行ったSくんの背中を見送りながら、なんだかじんわりした暖かい気持ちが心の中にそっと芽生えた。



それが、"好き"だということに気がついたのは、それからもう少し後のことなんだけど。



***



これが今から8年前、わたしが高校3年生の時のバレンタインの話。


察しが良い人はもう気がついていると思うけど、この時6年ぶりに再会を果たしたSくんこそが、今のわたしの彼氏、しまけーくん。



あの時、ひとつのチロルチョコから始まったわたしたち。


それから毎年、バレンタインを迎える度に、わたしは1つずつチロルチョコの数を増やしながら、付箋にメッセージを添えてプレゼントするようになった。



そして今年が9回目のバレンタイン。



チロルチョコは、9個になった。


あげる度に「俺別にそこまでチロルチョコ好きちゃうねんけどな〜」と笑いながら言う彼の言葉を無視して、わたしは毎年チロルを買う。



こんな些細なバレンタインだけど、わたしにとっては大事なバレンタイン。



ちっぽけだけど大切な、こんな小さな幸せを、これからもわたしは両手いっぱい抱えて大事にしていきたい。




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