意外なハグ
正月、父と母の住む兵庫県の実家に私家族、妹と妹の婚約者が集まった時のこと。
豪勢な夕食の後、父、私の夫、妹の婚約者という男3人の飲み会が始まった。父は家族で飲むのをいつも心待ちにしていて、この日のために普段よりワンランク上のウイスキーを準備していた。「おいしい!」、「おいしい!」と夫と妹の婚約者が褒めるため、父も上機嫌で杯を重ねた。
3人ともかなり酔いが回ったときのことだった。父がこう切り出した。
「2人に言っておきたいことがある。娘たちを抱きしめてあげてほしい。」
私と妹は顔を見合わせた。今までそんな言葉を父から聞いたことは一度もなかった。
サラリーマンをしていた父はかなり細かい性格で、私たちが子供の頃、食事のマナーで厳しく叱られるため、夕食の時間は父から怒られないように、ものをこぼさないで食べるのに必死で、食事の時間は憂鬱だった。
そんな厳しい父に反発し、妹は中学生の時不良グループに入り、我が家はかなり荒れた。
私はそんな家から早く出たくて、大学から一人暮らしをして家を出た。
そんな父がハグ?抱きしめるだと???
父はこう続けた。
「娘たちが小さい頃、私は抱きしめてあげることができなかった。」
父は朝早くから夜遅くまで家族のために働き、帰宅が遅かった。育児も当時の父親としては積極的に分担し、日曜日はよくあちこちに電車で連れて行ってくれた。しかし、確かに父に抱きしめられたのは記憶にない。
日本の当時の育児書には、子どもを抱きしめてあげると自己肯定感が育つなど、書いていなかったはずだ。
父が私たちが巣立った後、何かの本を読んで取り入れた知識なのだろう。
その子育て終了時から現在までの父の学びがうれしかった。
その日ウイスキーが進んだ3人はきっと覚えていないが、私の記憶には一生残るエピソードだ。
より良い発信ができるように、体験や知識に投資させていただきます。