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河合隼雄を学ぶ・24(岩宮恵子著)「生きにくい子どもたち」

岩宮恵子さんは、河合隼雄直系の弟子、と言われている臨床心理士である。この方の本を2冊続けて読んで、子どもと向き合う著者の命がけのような心理療法家としてのあり方に感銘を受けた。

「生きにくい子どもたち」では、「良い子」でいすぎたために、心が抗議の悲鳴を上げた2人の子どもが紹介されている。

アリサという女の子は、「痩せたい」という願望が強く芽生えているわけでもない10歳の女の子。それまで姉妹の中でも目立たない「良い子」だったが、だんだん食が細くなり、やがてまったく食べ物も飲み物も受け付けなくなり、ついには自分の唾液も飲み込めず、ティッシュに吐き出すまでになった。

岩宮さんは、「食べ物」を拒否するということは、「この世」で生きていくための「身体」を拒否することと同義だという。自分自身の身体も含めた「この世」に存在しているものすべてを受け入れられなくなっている状態が、拒食という厳しい症状だと考えている。

子どもは、生きるか死ぬかというレベルの深刻な問題を抱えていても、大人がすんなり理解できるような具体的な問題のかたちをとっていなかったり、自分でも何が問題なのかわからなかったりして、親や大人に話すことなく、殻に閉じこもっていることがあるという。

そして、何かのきっかけで急激に症状を持ったり、不適応というかたちで表面化せざるを得なくなる子たちがいる。親は「あんなに何でも話してくれる良い子だったのに」と驚くが、子どもは「大人が安心するような表面的な悩み、話せることだけ」話していたのだ。症状を出したり、現実適応が徹底的に崩れるほんの直前まで、ぎりぎりのところでその子が耐えていたなど、周りは気づかないことが多い。

アリサの場合も、強烈な無意識からの要請により、命をかけた「死」に近い場所で拒食をしていた。そんなアリサと、岩宮さんは繊細な緊張感をもって対峙していく。

アリサと岩宮さんの治療の過程、エピソードを読んでいると、「子どもが本当に欲しいのは、自分に対してエネルギーを賭けて対峙してくれる相手なのだ」という岩宮さんの言葉に深くうなづける。

アリサは最後、「かぐや姫が月に帰るように」、岩宮さんのカウンセリングルームから去っていく。強い症状を抱えた少女特有の「きらめき」は失ったものの、代わりに、年相応の少女らしい明るい笑顔で手を振って。

この本を読んだ谷川俊太郎が書き下ろしたという詩が心に沁みる。

わらわないのはわらいたいから
だまりこくるのははなしたいから
にくむのはあいしているから
きょうにしかいきられないのに
きょうだけではいきていけない
きのうときょうをむすぶおはなし
だれもきいたことのないはなし
ことばでははなせないはなし
ゆめのなかにひそむはなし
わたしだけのおはなしをよんで
こころがかくすわたしのこころを
かおがかくすわたしのかおに




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