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河合隼雄を学ぶ・14「こころと脳の対話②」

(前号の続きです)

【「魂」を救う対話】

<茂木>「しんどさ」というのに僕はものすごく興味がありまして。というのは、われわれでも、たとえば理論を考えているときに、この理論を考えるのはしんどいなぁ、というときがあるんですよね。でもそれが、なんか意外と価値のあることだったりして。そのしんどさを通り過ぎないと、価値あるものをつかめないということろもあるわけですね。

<河合>苦しんでいる人がこられたら、苦しみをとるんじゃなくて、苦しみを正面から受け止めるようにしているのが、僕らの仕事やと思っています。逃げない。まっすぐに受ける。どんな話でも、完璧にまっすぐ聞くわけです。奥さんの悪口ばっかり言っているクライエントでも、その悪口をまっすぐに感心して「はぁ~」と聞いていると、その人の視線がまっすぐになってくる。(中略)話を聞いているときに、「中心をはずさんように聞いているか」って思います。でも、なかなかむずかしいでしょう。どうしてもはずれる。奥さんの悪口ばかりいう人に「ええかげんにせい!」っていうのは、もうはずれているでしよう。僕はその悪口をバチッと正面から受ける。なかなか簡単にはできません。それは。

<河合>その人は「離人症性障害」っていう、大変なノイローゼなんです。現実感がなくなるんですね。すっごく苦しいけど、誰もわかってくれない。そういう離人症になられた人が、自分が現実感覚がないのをなんとかしたいと思うから、人と接近するわけね。その人、きれいな女の人やったから、恋人がいっぱいできて、また、いっぺんに二人も三人もつくったらしいから、恋人同士が殴り合いをしたり、劇的なことが周りでいっぱい起こっているんだけれど、その人は全然、劇の外にいるわけです。その人が、あちこちのセラピストのところに行っても、どうしてもうまくいかない。何人かのあとで、私のところに来られた。治るまでに五年くらいかかったんですよね。治ってお礼を言われたときの言葉がおもしろいんですよ。

「いちばん初め、先生に会ったときに、この先生で自分は治ると思った」

「どうしてですか」

「いままでの先生と全然違った」

「どう違った?」

「私が部屋に入ってきたとき、先生は私の顔にも、服装にも、全然関心を示されなかった」

「ああ、そうですか」

「それだけじゃありません。先生は私の話の内容に、全然、注意しておられませんでした」

「僕、何をしてましたか」

「何をしておられたかというのは、すごくむずかしいんだけれども、あえていうなら、もし人間に『魂』というものがあるとしたら、そこだけ見ておられました

ほんま、ほめ方としては最高ですね。それが、僕がやりたがっていることなんですよ。その人を本当に動かしている根本の「魂」---これと僕は勝負している。こういう気持ちです。


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