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13. 女王の首飾り 

女王の首飾り

群青色の夜 
丘のハンギングガーデンから見下ろす
海沿いのマリンドライヴは
美しいイルミネーションが
カーヴを縁取りながら煌く女王の首飾り

金色の昼 
海沿いのマリンドライヴを男が 
歩く 一歩一歩
古ぼけた木の荷車に
不揃いの乾いた材木を山積みにして 
引く 一歩一歩
熱いアスファルトを裸足で踏みしめ
足元を見つめ

激しい逆光が男を影にする
高級カフェには外国人旅行者達が
着慣れないインド衣装で着飾り浮かれ集う
男は時折腰を起こし周囲を見まわす
自分の居場所を確かめるように
高級車が次々と男を掠める
最先端技術を駆使した建物とスラムが
寄せ絵のようにはめ込まれたムンバイの街を背後に
涼しそうに立ち並ぶホテルやオフィスビルが
光るアラビア海を眺めている

太陽が光で隠す女王の首飾りの上を男が 
行く 一歩一歩
等間隔に植えられた椰子の木影が
現れては消えながら男を労る
定期的に汗がぼたぼた落ちる
置き去りにされる染みはアスファルトに溶け
瞬く間に渇いていく 
言葉では括れない現実という幻のように

夜 
社会の三角形を見え易く呈する街が闇に覆われる
海沿いのマリンドライブは
極上のまばゆさで輝く女王の首飾り

女王の姿は
誰も見たことがない

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