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【詩】書く

書く

蝉の声を聞きながら
掛かり付けの内科まで
火照った身体を引きずるように
歩いて行った

夏風邪にダウンした
瞬きをするたびに瞼の裏で
様々なイベントが書き込まれたスマホの
スケジュール画面がチカチカする

診察室に呼ばれた
大好きだった担当医が変わっていた
長年頼りにしてきた彼は独立したそうだ
左利きの大きな手に
見放されたような寂しさに襲われる

新しい担当医は私のカルテを見ながら
「念のため」と言いつつ
以前聞かれたことと同じ質問を繰り返す
だるい頭にどんよりした感覚がのしかかる

カルテに去年私が送った
クリスマスカードが挟まれていた
写真付きの印刷されたハガキの端に
ひと言だけ手書きのメッセージが添えてある
「新年もどうぞよろしくお願いいたします」
季節外れの言葉は色褪せ
自分の字がよそよそしい

毎年少し遅れてくる年賀状を思い出した
彼女からの挨拶はいつも毛筆の手書き
年が明けてから
一枚ずつ心を込めて書いているそうだ

お中元の頂き物に
まだお礼を出していなかった
私もたまには手書きで書いてみようか
すぐに重荷を感じ始めて考え直した

「書く」とばかり言っていた
「打つ」の間違えだった


*本作は2003年に執筆したものに加筆・修正を加えた作品です。

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