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3. 物乞い

物乞い

瞳は陽に焼けた真水
持ち物は命

車窓のウインドウフィルムの向こう
灼熱の陽光を浴びる灰色の世界から
幼い物乞いの少年が背伸びで私の車内を覗き込む
手で空を摘み何度も口に持っていく仕種
憐れぶった表情

瞳は憐憫と羨望を知らず
持ち物は瞬間の喜び
  
少年の全身からは朗らかさが漂う
背後に見える混雑した大寺院の側道では
仲間の子供達が光る塵と共にはしゃぎ
親族らしき男性三人がにこやかに少年を見守る

運命は偶然のように気紛れな形相
低みへの柔軟性は強さの源

少年はなぜその少年なのか
なぜ私が少年ではなかったのか
私が彼になるとすぐ惨めに窒息する
必要だと思いこんでいる物の多さが手に負えない
幸福を過酷と見誤る私に
幸福を耐える強さはない

恐怖に心臓を蹴飛ばされ窓を開ける
現実ぶった熱風と喧騒がもわんと車内に入り込む
幼い物乞いにありったけのキャッシュを渡す
慈愛の行為だと言い張る心の裏で
神に取引を乞う

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