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現代詩2

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過去に発表した現代詩の作品集です。
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#ポエム

【詩】寄り道

寄り道 緊迫したミーティングを終え オフィスに戻ろうと乗ったタクシーは 月末と秋雨が重なり…

【詩】薬指

薬指 三歳になったばかりの娘が 赤いクレヨンで絵を描いてくれた たどたどしい線がかろうじて…

【詩】休憩

休憩 休憩 彼女はとうとう離婚してしまった 自分の痛みを小さな缶に無理矢理詰め込み ハンマ…

【詩】独り占め

独り占め 花冷えの午後 白いトレンチコートの下に 薄紅色のセーターを着込んでいた 桜並木の…

【詩】ひがん

ひがん 春分の日が終わろうとしている 境界のない空が 穢土を知らない子供のような 屈託なく…

【詩】怖い一日

怖い一日 午後にはまた あの人に会わなければならない 怖い 先日投げ付けられた ネガティブな…

【詩】完璧な人

完璧な人 ~ドクター3 春の花達が翻弄される気紛れな天候に包まれ 今朝も虹色に輝く花粉光環が青空に映えていた 患者で溢れる総合病院 私は顎周辺の皮膚がかぶれてしまった そのうち治るだろうと高を括っていたら 我慢できない痛痒さという枷で かぶれが悲鳴を上げた 私の担当医は若手のエリート男性 彼は立ち居振る舞いだけでなく 顔にも落ち度がない 新品のマネキンみたいにきれいな肌 会計の順番を待っている時 彼が助手達を引き連れて 颯爽と目の前を歩いて行った 白衣の医師の後ろ姿

【詩】こがねの川

こがねの川 久しぶりに辿り着いた故郷は 何も変わっていなかった 如月の川面は 紅梅に見守ら…

【詩】ふれあい

ふれあい 夜更けに電話が鳴った 幼なじみの優子がたまには触れ合いを感じたいと 独り暮らしの…

【詩】一流ホテル

一流ホテル 家から歩いて5分 そこに私はタクシーで乗り付ける 車から降りた途端 「いらっし…

【詩】グミ

グミ 還暦をとうに越えた仕事仲間の陽光さんは お菓子のグミが大好きだ お洒落なスーツのポケ…

【詩】おしゃれ

おしゃれ 今朝のアラームは バルコニーの鉢植えと共演する雨音だった 大切な約束がある日に …

【詩】後ろ姿

後ろ姿 雪花の早朝 いつものようにしわがれた掌が かじかみにやっと逆らいながら半分開き 線…

【詩】女

女 「女」という字は妊婦の姿に似ていると 外国人のウエイターが微笑んだ お洒落なレストランで 親友とランチを頬張っていた妊娠七か月の頃 細見が自慢だったのに見事な太りっぷりだった ダイエットなどすっかり忘れ  栄養補給の名の下で食べ物に魅了されていた いつも無意識にお腹をさすりながら 何でもおいしそうに食べるパンパンの私を そのウエイターは「美しい」と言った あれから六年 元気な双子の息子と娘はもうすぐ小学生 私の身体は 母乳を出し切って萎んだバスト以外 自然と元通りに