【詩】こがねの川
こがねの川
久しぶりに辿り着いた故郷は
何も変わっていなかった
如月の川面は
紅梅に見守られながら夕陽に輝き
こがね色のさざ波をたてている
ただ長いだけの一日に心地良く疲れ
広い土手の芝生に寝そべり目を閉じた
草や土や水は
陽光と混じり合って懐かしい香りが漂い
優しい風の旋律が奏でられていた
降り注ぐ甘美な恵みが
身体の隅々まで染み込んでいくのを味わいながら
あらゆるものに受け入れられている自分を感じた
子供の頃
私はいつも大人達にきつく言われていた
「川の向こうに行ってはいけないよ
人間の姿をした鬼達と動物達が住んでいるんだよ」
幼い私は
ある日とうとう好奇心に勝てず
ひとりでおずおずと橋を渡った
覗き見た未知の世界には
自分がそれまで馴染んできたものと全く同じ生活があった
大人達と子供達と普通の動物達がいて
家族と長閑な笑顔があった
川の向こう側から見た私の町は
見慣れた風景が映った鏡のようだった
その時
稲妻のような轟が私の全霊を貫いた
近くて遠い冒険は
まだ密かに胸の中で眠っている
相変わらず大人達は子供達に言い続けている
「川の向こうに行ってはいけないよ」
数えきれない境界線
果てしない長旅だった
私は
何のためらいもなく
ありふれた橋をいくつも渡ってきた
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