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現代詩2

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過去に発表した現代詩の作品集です。
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記事一覧

【詩】交信

交信 幼い頃の秘密基地 丘のふもとの岩陰の城 誰とだって交信できた 金星 木星 火星人  …

【詩】書く

書く 蝉の声を聞きながら 掛かり付けの内科まで 火照った身体を引きずるように 歩いて行った …

【詩】大空からの涙

大空からの涙 揺りかごに揺られるような心地良さに いつの間にかうたた寝をしていた 当然訪れ…

【詩】ひな祭り

ひな祭り 「今日は楽しいひな祭り」と歌うメロディーが どうしてこんなに切ないのだろう 3…

【詩】寄り道

寄り道 緊迫したミーティングを終え オフィスに戻ろうと乗ったタクシーは 月末と秋雨が重なり…

【詩】月の鏡

月の鏡 群青色の夜空 神さまのおとぎ話みたいに 満月が静かに微笑む 散りばめられた星屑の下…

【詩】絆

絆 青々とした強気な自我に反し 刹那の戯れへの未練を残しながら 抗えない力に導かれるように ふわふわと至った誓いだった 若かりし頃の私には 思いもよらない絆だった 激しい恋は安らかな愛に昇華し 溢れるほどの魂への恵みで 瞬間を重ねていく いったいこれまで 何度あなたと生きたのだろうか どんな関係でもかまわない いつか一緒に到達することを ただ ひたむきに憧れる

【詩】公約

公約 リビングで うとうと  久しぶりに心地良い昼寝をしていた 子供達と一緒にさっきプール…

【詩】非常階段

非常階段 以前住んでいた我が家のリビングから 水色のオフィスビルが見えた 隣の大きな月極駐…

【詩】読む

読む 早朝の私鉄駅 小銭入れのジッパーを無意識に開け閉めしながら 券売機の前で運賃表を見上…

【詩】薬指

薬指 三歳になったばかりの娘が 赤いクレヨンで絵を描いてくれた たどたどしい線がかろうじて…

【詩】休憩

休憩 休憩 彼女はとうとう離婚してしまった 自分の痛みを小さな缶に無理矢理詰め込み ハンマ…

【詩】独り占め

独り占め 花冷えの午後 白いトレンチコートの下に 薄紅色のセーターを着込んでいた 桜並木の…

【詩】ひがん

ひがん 春分の日が終わろうとしている 境界のない空が 穢土を知らない子供のような 屈託なくさわやかな春光をくれた たわいない忙しさに紛れ 今年も墓参りの帰省をしなかった 山脈を照らす夕陽の代わりに ビルの谷間に隠れゆく雄大な光を見ていた 厳かに目を閉じる 祈る 人混みの歩道で周囲を気にせず 両手を併せて頭を垂れる勇気は  まだない インド人の夫と結婚して33年 深い愛に満ちた義父母が他界するまで 私達を待つ遠い異国のもうひとつの日常へ繋がる電話は 毎週欠かさなかった 「