生徒のプライバシーや安全を尊重できていますか?
1.はじめに
最近、気になるつぶやきを見つけました。
私は、このつぶやきで言及されているバレエの「先生」のInstagramアカウントを把握していません。実際に投稿されている写真・動画も確認できておらず、その教室や先生の名前もわかりません。
ただ、以下のような状況であろうと推測できますので、今回は、このような投稿をしている教室があると仮定して、その法的な問題点と留意点を検討します。
アカウント:バレエ教室またはその教室のバレエ講師の実名アカウント。宣伝目的で運用されている。その教室の名称、所在地などがプロフィール欄等で公開されているか、あるいは容易に特定できる。
投稿内容:普段からジュニアの生徒のレッスンの動画や写真(いずれも生徒の顔が判別できる程度にクリアなものでレオタード着用、羽織りものなし)を撮影し、投稿している。また、発表会のプログラムの生徒の氏名及び顔写真が掲載されているページを撮影した写真も投稿した。
2.法的な問題
(1)個人情報保護法
氏名のみ、顔写真のみでも、特定の個人を識別することができるので、個人情報保護法の定義する「個人情報」に該当すると考えられています。
そして、小規模なバレエ教室といえども、教室運営のために生徒や補助講師の氏名、連絡先等をまとめた名簿を作って利用しているでしょうから、そのバレエ教室(個人事業であれば主宰者本人)は「個人情報取扱事業者」に当たるといえます。そうすると、そのバレエ教室(または主宰者)は、個人情報の利用目的をあらかじめ具体的に定めてその目的を生徒(法定代理人)に通知(または公表)する義務、個人情報をその利用目的外に使ってはならない義務、個人情報を漏えいさせないよう適切な措置を講じる義務などを負います。
レッスン中の生徒の写真や動画も、生徒の氏名及び顔写真が掲載されているプログラムのページの写真も、生徒の個人情報を含んだものですから、バレエ教室がそのような写真を不特定多数の閲覧できる媒体に投稿することは、プライバシーの問題はもちろん、個人情報保護法上の問題を生じさせます(※念のため追記:プログラムに顔写真が掲載されていなくとも同様です)。
予め教室が生徒(ジュニアであれば法定代理人)に対し、そのレッスンで撮影を行うこと及び撮影した写真を投稿することを伝え、生徒がそれを了承してレッスンに参加しているか(その場合でも公開して問題のないような写真にとどめるべきなのは当然です。)、または事後に写真や動画を投稿することについて明確な承諾を得られているような場合でなければ、そのバレエ教室の個人情報の取扱いには法的な問題があると考えます。
発表会のプログラム(生徒の氏名と顔写真を組み合わせて紹介しているページ)の投稿も同様です。
生徒(または法定代理人)は、プログラムが発表会会場に来る人たちに配布されることは了解のうえで氏名や写真の掲載に応じているでしょうが、そうであっても、紙媒体のプログラムの配布の範囲は一定程度に画されます。不特定多数が閲覧可能な媒体への投稿は、それと全く異なります。
「氏名」と「顔写真」の組み合わせたものは個人識別性が極めて高い情報です。入場無料の発表会であっても、入場者数の管理のためにチケット制をとっていて生徒や家族の顔見知りしか来場しないのが普通であること、印刷も1回限りで部数にも限りがあることをからすると、前者(プログラムへの掲載・配布)への了解をもって、後者(ソーシャルメディアへの投稿)への了解があるとはいえません。
(2)損害賠償責任
上記のとおり、生徒の個人情報のソーシャルメディアへの安易な投稿は、個人情報保護法に違反する懸念があるほか、民事上の法的責任、具体的には、生徒の写真・動画や氏名の勝手な投稿によるプライバシー侵害、肖像権侵害に基づく損害賠償責任(債務不履行責任または不法行為責任)も生じうると考えられるので、ご注意ください。
3.生徒の写真や動画をソーシャルメディアに投稿するバレエ教室の方へ
ソーシャルメディア、特にInstagramには、バレエ教室(または講師個人)のアカウントが多くあります。そして、レッスンの動画が投稿されているのをよく目にします。ホームページを開設するより手軽ですし、レッスン動画は教室選びの参考にするとして利用されるので宣伝効果もあると思います。
加えて、「他の多くの教室もやっているから」問題がないだとうと思ってしまうこともあると想像します。
もっとも、個人情報保護法という法律を持ち出すまでもなく(たとえ個人情報保護法という法律がこの世に存在せずとも)、生徒の写真や動画には、写っている生徒一人一人のプライバシーや肖像権を侵害しうる情報が含まれているということ、さらには、インターネットへの投稿は、いったん投稿されると事後に削除しても完全に世の中から消すことのできないものであることを、まずご理解いただきたいと思います。
レッスン中の生徒は、不特定多数から興味本位に見られるための客体ではありません。生徒の肖像権やプライバシーをどう扱うか、教室に決定権限はありません。決定をなしうるとしたら、生徒本人(年齢による)か、法定代理人です。被写体の同意のない写真・動画の投稿は、他人の大事なお子さんである生徒のプライバシー侵害の問題だということを認識いただきたいところです。
バレエ教室が投稿する写真により、被写体の生徒は、通っている教室や普段参加しているレッスン(曜日・時間帯)などを、自身の意思にかかわらず公表されてしまいます。第三者から行動パターンが推測される事態にもなりえます。
加えて、残念ながら、レッスン中の生徒写真を、投稿者が想定もしていなかった使い方をする人がいること、そのような使い方をするために熱心に同種の写真を収集する人がいること、そして、世の中に出回っている複数の情報を組み合わせれば多くの情報を収集することができる時代になってしまったことも、ぜひ知っておいてください。
バレエのレッスンはレオタード姿で行われます。ストレッチやレッスン中の写真には、センシティブな部位(いくらレオタードの上からとはいえ)が写りこんでしまう場合もあります。バレエ教室や生徒にとっては当たり前のレオタード姿やストレッチの体勢でも、バレエになじみのない外部の人からは、水着姿と変わらないように見られる姿であることを認識し、生徒(や法定代理人)の真摯な同意が本当にあるといえるのか、投稿しても問題のない写真・動画かどうかを投稿前に立ち止まって考えていただければと思います。
バレエ教室の写真についてではないですが、親御さんが投稿するお子さんの水着姿の写真を熱心に収集する人がいることに警鐘を鳴らす新生児科医の指摘も、知っておいてください。
投稿によって被害が生じるのは生徒であって、投稿者ではありません。投稿者が責任を取れる問題ではありません。
4. バレエ教室にお子さんを通わせる保護者の方へ
家庭で撮影したお子さんの思い出の写真についても、投稿は慎重にされるようにすることを心がけてください。
また、もしお子さんを通わせているバレエ教室やその教室の先生が、生徒の写真を積極的にソーシャルメディアに投稿しているのを見つけたときは、それを本当によいと思えるか、さらに、お子さんが大人になったときに振り返ったときにその写真が世の中に出回っていることをお子さん自身が良いと思うだろうか、という観点で、その教室の方針に賛同するかどうか、ご検討いただきたいと思います。
そのうえで、そのような教室の方針に賛同しないと判断されたときは、ぜひ教室の主宰者等と率直に話し合ってください。個人情報保護法に基づく利用停止や苦情の申出などをされたりすることも必要かもしれません。それでも教室主宰者が問題点に気付かなければ、教室を変えることも一つの選択肢となるでしょう。
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