見出し画像

令和初の年賀状を出そうかどうしようか

毎年使っている年賀状作成サービスの会社からDMが届いた。早割のクーポン付きで、「令和初の年賀状をだそう」と書いてあった。
もう年賀状を考える季節か、と私はため息をついた。

去年、平成の終わりを機に年賀状を最後にしますと告げる「卒年賀」の風潮があったようなことをなんとなく覚えている。なら、今年から年賀状を送る人は減るだろうか。特に宣言はしてないが、わが家も令和からは送らないと決めた派として振舞おうか。
だって、めんどくさい。ただでさえ忙しい年の瀬に、年賀状の準備はめんどくさいのだ。

そもそも独身の頃は年賀状を送ったことなどなかった。結婚して、子どもがうまれて、親バカでかわいいわが子の写真をつけて、親戚や友人に送るようになった。
地元から離れている私たち夫婦にとって、年賀状は近況報告も兼ねている。差出先は、普段なかなか会わない人たちが多い。だからか、年賀状でしかやり取りのない友人が年々増えていく。主には、学生時代の友人たちだ。
30代は、ちょうど人生の変化が多い時期だ。結婚したり、子どもが生まれたり、家を建てたり。

ある年初めに、学生時代の恋を知っている友人から、「子どもが生まれました」という写真付きの年賀状が届いた。旦那様には、会ったことがない。生まれた赤ちゃんの顔を見ると、もやもやと過去を思い出し、不思議な気持ちになった。

大学生の頃だ。友人が好きだった人に振られて、泣きじゃくる彼女をなだめながら、なぜか一緒に吉野家で牛丼を食べた。深夜に女二人でカウンターに座って、確か少々重い話をした。
「結婚相手に、早く出会いたいの」
田舎からでてきた彼女には弟がいるが、弟には障害があり、自分が婿養子をもらって跡継ぎを生まなきゃならない。だから大学生のうちにいい人をみつけたい。振られた彼は、彼女が理想とする結婚相手にぴったりだった。
「もう、彼みたいな人に出会えないかもしれない」

そう言っていた頃から10年以上が過ぎ、彼女には素敵な人が現れたのだ。旦那様の顔は、数年前の年賀状で見たような気がする。待望の赤ちゃんは、やはり跡継ぎを期待されているのだろうか。名字は旦那様の性に変わったみたいだけれど、婿養子でなくてよかったのか? 家庭の事情まで、深くは聞けない。もうそこまでの関係ではない。

独身時代の会社の同期からも年賀状が届く。男一人、女二人の三人だけの新卒同期だった。入社後の飲み会で、社会人になることの不安や希望を話し合った。毎日顔を合わせて、仕事を覚えて、家族よりも長くいて、助けてくれた仲間で、ライバルだった。
今では全員、バラバラの会社で、バラバラの日々を送っている。
年賀状には毎年「今年は会おう」と書かれていて、その希望はなかなか達成されていない。
でも、それでもいい。何かの拍子で集まる機会ができるかもしれない。会いたい気持ちがあるということを伝え合うことに意味があるのだ。

ふだんはバラバラの生活を送っているのに、年賀状の片隅に書かれた手書きの字をみると、不思議と過去に引き戻される。
まるでタイムマシーンのようだ
「あの頃は、ああだった」「今はこんなふうなのか」とあれこれ思いが巡る。
年賀状の準備はめんどくさいが、もらうのは好きかもしれない。
今の時代、SNSもあるし近況を知る手段は年賀状だけではない。でも紙というアナログさがノスタルジーに拍車をかける。
年賀状を見るとその人と関係が濃かった時のことを思い出すのだ。
一緒にピザを食べたこと、深夜に自転車で大通りを走ったこと、終電をなくしてバーで語り明かしたこと。
一人ひとりに、私とあなたにしかない思い出がある。

相手も同じ気持ちになってくれているだろうか? だとしたら、年賀状を書く意味はあるかもしれない。ほんの一瞬だけでも、自分のことを思い出してくれたら嬉しい。

だが一方で、もしかしたら迷惑なのかもしれない、とも思う。過去の思い出を引きずっているのは自分だけで、相手はもう忘れてしまっているのかもしれない。
現に、年賀状を出してみたけど返事がなかったという相手もいる。
逆に自分が出していない相手から年賀状が届き、非礼を詫びてメールをしたら、「出していたっけ? 毎年のリストで出しているから、気にしなくていいよ」という返事が来たこともあった。
惰性で送り続けるなら、インクと紙の無駄かもしれない。人間関係のさじ加減は難しい。

去年、年賀状を卒業、の宣言をした人たちは、今年は宣言通り出さないことにして、身軽さを実感しているだろうか。
それとも宣言してみたはいいものの、やはりどうしようか悩んでいるのだろうか。
ましてや、今年は令和初。新しい元号でのあいさつをしておくべきなのか。

わが家はまだしばらく、答えが出そうにない。
たった一言、「今年もよろしく」そう告げることで、相手も心を温めてくれるだろうか。
最近では、あまり手間をかけずにサクッとスマホで年賀状が作れるアプリもあるらしい。
悩みながら、残りの2019年が過ぎていく。
でもまあ、年の瀬に、過去に出会った縁に思いを馳せながら、うだうだ迷い続けるのも悪くはない。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?