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一人暮らしで風邪をひいたら(短編小説)

頭のてっぺんが、ボーとする。
熱があがりはじめたからだ。

今日の最高気温はマイナス2度らしい。付けっ放しのテレビでさっきそう言ってた。
わたしは部屋の電気ストーブの火を恨めしくみつめながら、せんべい布団でガタガタと震えていた。
寒い、寒すぎる。

一人暮らしはこんな時に不便だ。
ストーブのスイッチを強にするのも、手の届かない場所にテレビのリモコンが落ちているのも誰も手伝ってくれやしない。
狭い6畳一間が、今日はやけに広く感じる。
のどが乾いた。
トイレにもいきたい。
でも、起きあがる気がしない。

眠気は波のように押し寄せて、わたしをあっという間に引きずり込む。
このまま、死ぬかもしれない。
夢の狭間で、不吉な予感がよぎった。

ピンポーン

夢うつつで、救いのベルを聞いた。
ガチャリとドアが開く音がして、
「大丈夫?」
と、私の顔を覗き込んだのは元彼だった。

きてくれた。まさか、どうして。
ありがとう、ありがとう。
別れるときにひどいこと言ってごめん。でもどうしてもあの時は許せなかったし顔もみたくないって思ったの。
でも全部、お互い水に流せるよね。もう一度、もう一度、やっぱり私にはあなたしか―――……。

目が覚めると、びっしょりと汗をかいて、薄闇の中にテレビの光がちかちかと反射していた。

「夢か……」
喉が渇いていたので、枕元のペットボトルに手を伸ばす。
心なしか、先ほどよりも体が動きやすい気がした。
元彼の夢なんかみたことが気まずい。なにより、よりを戻そうと夢の中でも思った自分が気まずい。

強くならねば。
心で誓う。
40歳を過ぎても自分を戒める機会は日々訪れる。
いつまでも元気で入れる保証なんて本当にどこにもないのだから。おひとりさまを決めたのだから、なにもかもを飲み込んで、強くならねば。

ずりずりと布団から這い出て、みかんを口にいれる。
甘酸っぱさがからだに沁みた。




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