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右派の私が「リベラル派による韓国分析本」を読んでみた②

保革対立の行きつく先

さて、引き続き、2冊目はNHK前ソウル支局長・池端修平氏の『韓国 内なる分断』(平凡社新書)

私はここのところ、日本の保革・左右の分裂が、(特に「戦後レジーム」的な)戦後政治からの転換を阻害してきたのではないか……と考えており、この対立を激化させてもいいことはないので、むしろ「できるところまでは一緒にやりませんか」と呼び掛けているのですが(こちらこちらをご参照ください)、韓国の陣営の分断は、日本の比ではないほど激しいものとなっています。

ご存じの通り、保→保と行ったおかげで一時期、幸せな余生を過ごしていた李明博元大統領も、文在寅の革新政権への政権交代により、結局は投獄される憂き目に。朴槿恵前大統領の悲劇的な末路は、自身にも責任があったとはいえ、憐憫の情を覚えるほどです。これが「保革対立/左右対立の行きつく先なのか」と。

人のふり見て、我がふり直せ。つまり、韓国の姿を見ることで、「国内の敵陣営潰しにばかり躍起になっていると、本当の問題が解決できませんよ」「敵を見誤ってはいませんか」と日本が気づくこともできるかもしれないわけです。

文在寅は左派でもリベラルではない

韓国の保革対立が激しいことは知識として知っていましたし、文在寅大統領が革新派の中でもかなり強い思想を持った人であることも知ってはいたのですが、具体的なエピソードには驚かされるところが多くありました。

例えば光州事件の犠牲者を追悼する「君のための行進曲」という歌。これまでは保守政治家は起立はしても歌わない、という態度をとってきましたが、文在寅はこれを許さず、「全員斉唱」を義務付けたという。

日本では、「左派=リベラル」という構図で語られることも多いですが、文大統領のこの姿勢はどう考えてもリベラルではないでしょう。戦う大統領・文在寅を評価する日本の左派(リベラル)は、こうした事実をご存じなのかどうか。あなた方が最も嫌うタイプの権力者では?

また、日本でも安倍政権下で「政権に都合の悪いキャスターが番組を降ろされた(のではないか)」という話が一時話題になりましたが、韓国はさらに上を行っています。

メディアでは、公共放送KBSをはじめ、いくつもの社で、朴政権下で就任したトップが解任や辞任に追い込まれ、ニュース番組のキャスター陣が刷新された。

さらには保守政権時代の出来事についての「陰謀論」がメディアで流布されるようにもなったという。《「積弊清算」の事例を挙げていくと、きりがない》とは、筆者の池端氏の弁。

「反日ではなく、保守潰し」と言われても

「積弊清算」、文在寅大統領の掲げた大義ですが、これは言い換えれば「戦前・戦後の保守派のやってきたことは、結果がどうあれぶっ潰す」ということになります。韓国経済成長の「神話」である「漢江の奇跡」も、軍事政権下での、しかも日本の協力を得たものなのでなかったことにすべし、と。その意思と手法たるや、苛烈を極めていることが本書ではよくわかります。

しかも「清算」されるべき過去には当然日本とのかかわりも入ってくるのであり、文政権下で「戦犯企業の商品にシールを貼って貶めろ」というような、およそ理性的とは思えない振る舞いも、慰安婦問題や徴用工問題の吹き上がりも、この「清算すべし」との思想から起こるもの。《保守派政権の実績を全否定しようとするあまり、(日韓関係までも)収拾がつかなくなってきたのだ》と池端氏は述べています。

「反日ではなく、保守潰しです」「今の日本への反日ではなくて、過去の日本を批判しているんです」と言われればなるほど頭では理解できますが、かといってこちらが「韓国国内の保革対立の結果として敵視される(過去と現在の)日本、という構図」を甘受せねばならない道理はないわけです。

「嫌韓」が生まれた構図

実は、文大統領は就任当時、こう述べていたそうで。

分裂と葛藤の政治も変えていく。保守、進歩の葛藤は終わらなければならない。

もちろん、保守を全滅させれば、葛藤も分裂もなくなるわけですが。

池端氏はこれについて、次のように述べています。

韓国社会を深く分断する「南南葛藤」を象徴する「パルゲンイ(アカの野郎=共産主義野郎、の意)」という言葉のルーツを日本に押し付けてしまうことで、「このような分断は我が民族のすることではない。そろそろ目を覚まそう」と保守派と進歩派の両陣営に語り掛けたかったのではないか。
韓国の分断を日本に責任転嫁するような発想は、日本人からすれば面白くはない。だが、もし、文在寅が日本に支配された過去を利用して、曲がりなりにも現代の葛藤を鎮める一歩を踏み出したのだとするなら、どうだろうか。

どうだろうか、と聞かれたら、正直「だが断る」と言いたくなる日本の私ですが。韓国内の保革の罵りあいで傷つく人がいるように、日本人だって何でもかんでも日本のせいにされれば傷つきます。こうした、「韓国も大変だから、俺たちも困ってるけど大目に見てやろうや」という姿勢の押し付けが積もりに積もって、日本の「嫌韓」を生んだ一面は、強調してしかるべきでしょう。

韓国のふり見て我がふり直せ

私も、「占領の継続としての日米関係」はきれいさっぱり清算すべきであり、それは日本の右と左が一緒にやるべきだ、と考えている、と冒頭で触れました。

しかしそれが、「対米自立」ではあっても、「反米」になってはいけない、とも思うのです。私もここは自分自身でもバランスを取るのがとても難しいのですが、アメリカが悪いわけではないし、日本としても助かっていた、甘えていた部分もあったわけです。それを、ことさら「アメリカ憎し」を強調する必要もない。過去を消し去ろうなんて言うのは、最も忌むべきことです。

もちろん「反米」とした方が運動は盛り上がるでしょう。韓国の「反日」と同じように。しかし、「反」でだけつながった思想というのは脆い。「反米」を抜けた途端に、自分たちのいく道を見失うし、結局また元の右左分裂を招きかねないからです。

日韓は合わせ鏡、というと嫌がる向きも多いでしょうし、私もあまり好きな表現ではありませんが、「人のふり見て我がふり直せ」という諺は、韓国を見ているときにこそ最も当てはまるのかもしれません。

北朝鮮にポケモン(笑)

さて、ちょっとしたネタですが、本書で思わず笑ってしまったのが「ポケモンGO」について。韓国では国防上の観点から、外国企業に韓国内の詳細な地図を渡せないため、サービス開始が遅れた。が、日本海に面した一部ではなぜかプレイできたうえ、次のようなこともあったそうな。

ゲーム会社による網目の都合から、実は、北朝鮮の東海岸にもポケモンは現れた。だが、当然ながら、誰も韓国側から軍事境界線を越えて近づけなあかったため、捕獲は不可能であった。

北朝鮮領土内に現れる、誰も捕まえることのできないポケモン……。金正恩がひそかに捕獲したりして、などと想像してしまいますね(笑)。

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