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【あべ本#27】望月衣塑子×佐高信『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』

飲み屋でやって、どうぞ

〈権力が隠し、メディアが伝えない この国の「中枢」の真実!〉という一文も勇ましく、この「あべ本レビュー」でもおなじみのお2人がそろい踏みする今回の本。ですが「中枢」にはまったく迫れていない悲しい結果となりましたことをご報告いたします。

最初の往復書簡からして嫌な予感がしました。「前略 佐高さま」「拝復 望月さん」などと始まるわけですが、ところがそうした嫌な予感を下回る本文(対談部分)だとは思いもよらず、閉口するばかり。

「あなたは、ゼミは?」(佐高)とか、どうぞ飲み屋でやってください

「前川喜平さんには清潔感がある」

冒頭の往復書簡が終わって、「ようやく、『中枢』に迫る緊迫の対談が……」と期待したら、どっこい、たっぷりと映画『新聞記者』の話が始まります。当該映画のプロデューサーが「沖縄の『星の砂』で儲けたから、社名が『スターサンズ』なんです」とか、どうでもええわ!!!!! と、ウォッチャーにあるまじき怒りを禁じえませんでした。

結局、第一章はこの映画『新聞記者』と、森達也監督の『i-新聞記者ドキュメント』の話でおしまい。

あとは、佐高が昔話を披露し、望月が現状を喋るというパターンと、あるいは佐高が望月のパーソナリティに興味があるらしく、例えば、読売新聞から声がかかって移籍を検討したという話だとか、「その時あなたのお父さんはなんて言ってたの」というような話などで転がしていくパターンが繰り返されるのですが、これがまた「飲み屋の話感」がすごい。望月氏の『新聞記者』のエピソードを、ただ佐高氏が薄く伸ばしているだけといった様相。

しまいには「前川喜平さんには清潔感がある」「中年女性のアイドルが前川さんなら、中年男性のアイドルは櫻井よしこ」とか訳の分からないことを佐高氏が言い出す始末で、官僚の天下りに関与していた前川氏のどこが清潔感だと怒りすら覚える次第であります。

反体制的高齢男性の「夢」を実現

とにかく、佐高氏が「かつての記者は接近戦をやっていたんだ」などと、望月氏に「昔話を教えているようで実は戦術を授けている」というような構図が目に付くのも特徴。対等に話しているようで対等でないというか、爺さんが女性の中堅どころに「教えてやってる」という構図がどうしても見え隠れしてしまうのはなぜなのでしょうか。もしくは、野球中継見ながら、「違うだろ、そこは代打じゃないだろ」とか言っている一般人かよという。

あー、そうかと気づきました。これは「望月ファンの反体制的高齢男性の夢」を体現したものなのですね。望月さんと、安倍批判で盛り上がりながら、自分の学生運動時代の話やうんちくを「そうなんですね」と聞いてもらいたい、そして望月さんのパーソナリティに迫りたい、という。

「正当に(菅官房長官や権力に)反抗しているあなたを陰でくさすような記者たちは、銀行にでも入り直せって」と突如として佐高氏が銀行蔑視のようなことを言い出したり、NHKという巨大放送局の中で数十年という長期にわたり現場で記者を務めてきたはずの相澤冬樹氏を、望月氏が「(相澤氏は)NHKという組織のなかでは生きられなかった」と言い出したりと、頓珍漢な話、ツッコミどころのオンパレードです。

安倍政権にかかわるところでは、森友学園問題を引き、近財職員だった赤木俊夫さんに言及していますが、これも「報道を見た私たちの感想」でしかない。「森友問題で改めて話しておきたいと思うのは……」と佐高氏は思わせぶりに切り込んでいきますが、「安倍の大阪での二日間を突け」「大阪維新の会と公明党を突け」という「もう前からみんな言ってますよね」感あふれる指摘を炸裂させていました。しかも、豊中市入りまでして森友事件を取材していながら「全く突けてない」人があなたの目の前にいるんですがね。

ブームの終焉を見る思い

へえそうだったんだ、という話が一つあるとすれば、亡くなった岸井成格氏が、例の「視聴者の会」によって名指しで批判された、新聞に全面広告に「だいぶこたえていた(らしい)」という望月氏のコメント。佐高氏も「こっちが思うよりもこたえていたと思う」と応じていますが、一方で「それまで岸井は毎日新聞政治部長、そして主筆だったから、名指しで批判されることなんかなかったでしょう」「組織人だから、個人攻撃されると弱い」と言っており、これには驚きました。自分たちはテレビでも紙面でも「権力監視だ」といって無茶苦茶に政治家をぶっ叩いているのに……と。

それに比べれば、こうして「個」として長く活動されている佐高氏は「強い」と言えるでしょうし、望月氏にしてもこれだけいろいろ叩かれても屈しないのでその強さは目を見張るべきものはあるのでしょう。

ただし「中枢」に迫れていない様子はこの本で全く明らかになっており、既にほかで書いている話、報じられている話題をただ「佐高氏と改めて話した」だけの本が発売されている現状を見ると、なにやら望月ブームも終焉が見えてきたように思います。


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