【あべ本#16】高橋彬『安倍政権 総括』
あべ本レビュー初のギブアップかに思われたが……
いやー、これは正直、ギブアップ寸前でした。
「まだ終わってないのに、もう総括かよ」(2017年刊行)というツッコミありきで読み始めたのはいいものの、ページが進まない。安倍政権に対する鋭いツッコミをし、広島訪問時のオバマ演説にも物申すなど、なるほどと思わないところもないのだが、どうしても読み進められない。
なぜだろう? と考えて思い当たったのは、「そもそも筆者がどの立ち位置から安倍政権批判をしているのか分からないから」。
読み進めて分かったのは、どうやら筆者は社会主義者のようで、安倍批判の先にあるのは「社会主義を失敗とみなしている世界」と「資本主義」であり、「有無を言わさず、社会主義を否定し、資本主義の側に立っていると思い込んでいること」であり、「むしろ現代日本の成功は、社会主義圏の存在によって救われたのだ」とする筆者の主張。これが安倍政権批判に絡まってくるので、(私にとっては)実に難解な仕上がりになっています。
文章そのものに難があるわけではないのに、この理解の進まなさ。この本は自費出版のようですが、なんというか「商業出版って、言うてもそれなりに読ませるつくりになっているのね……」ということを逆説的に教えられることと相成りました。
「中国の国是は欺瞞だ」
それでも、通常の「保守・革新」「右・左」に当てはまらない斬新な視点というものはあって、例えば「日中国交回復の際、中国は日本の軍国主義と国民の責任は別だとして、軍国主義がいかなる社会構造から生まれ日本国民が阻止しなかったかについての追及をしなかった。それをすると、中国共産党の抗日戦争の総括、革命闘争の総括もしなければならないからだ」などとあり、続けて、「ソ連であれ中国であれ、誰だって過去の総括なんかしたくない」という趣旨のことを述べる。まあそうだろうねという気がします。
日本をアゲれば、中韓露をサゲる。あるいは日本をサゲれば、中韓をアゲる(さすがに露をアゲる人はあまりいない)という枠組みの論説が多い中で、「中国を批判すべきは、社会主義・共産主義を国是として掲げながら、その実は全く逆であるという欺瞞性だ」などという一文を目にすると、いい意味での爽快な違和感を覚えるのですが、正直読むのはきつかったです。
人に歴史あり
そしてかなり長い時間がかかってようやくあとがきにたどり着いてみると、そこには筆者の「人間性」が垣間見えて、思わず息をのんだりもするわけです。
着手から完成まで時間を要した理由の一つは、患っていた妻の症状が思わしくなく、その介護等に時間を取られたことにある。その妻も昨年他界した。元気であった頃には「次の本はいつ出るの?」などと気にしていたことを思えば、間に合わせられなかったのは残念だが、しかし遅れたにせよ約束は果たせたかなと、言い訳できる気分ではある。
なんというか、人に歴史ありですよね。こういう、カネのためでも名誉のためでもない執筆活動の熱意に当てられると、考えさせられることも多いです。
ともかく最後まで読んだので、その点で筆者への義理は果たしたのではないかと自分では思っています。
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