18話、サウエム荒原(2)

「おーっと、そこに見えるのはアンじゃあないか!」
「ソフィーか?」
「まさか本当に生きて帰ってきたとは驚きだねっ、リリちゃんは無事に助けられたのかいっ?」

手を振り一行に近づいてくるソフィア。
 遠目にも大きな鞄を背負い、左手にはアタッシュケースのような鞄を持っている。

「ソフィー……その言い草はないだろう、全くアンタってやつは」
「もちろん生きて帰るって、信じていたさー」

軽薄な口調で言うソフィアに、アンは慣れた様子で返答を続けた。

「まぁいい、アンタは昔からずっとそういうやつだよ」
「よくわかっているじゃあないかっ!」
「ソフィーは、他人の幸運も不運も同じように喜ぶ変人だからな」

アンが、うなだれつつ答える。

「あの時だって……いやっその話はいいか、それよりもなんだってんだい、この騒ぎは?」
「あーそれねぇ」

ソフィアは珍しくバツの悪そうに頭をかき、門兵に聞こえないようにアンに耳打ちをする。
 それをみて横で見ていたリリ達も耳を傾けた。

「デザートプレデター討伐のためなんだとさ、王都から直属の騎士団が来たんだ!」
「あの獣人のみで構成された黒鉄靴騎士団のことか?」
「そうだ、よそ者が雨期については口を出さない、ってのがこの街の暗黙の了解なのはアンも知ってのとおりだと思うんだが……」
「だが?」

ソフィアの少し真面目に話す姿に、心配になったアンが合いの手を挟む。

「今回に関しては干渉してきたのさ、故郷だから勝手がわかるってね」
「なるほどな、それで黒鉄靴騎士団ってことか」

帰る土地を失った者、行く当てを失った者、そういった亜人も多く集まる街カルラ・オアシス。
 だからこそ獣人が中心に作られた黒鉄靴騎士団は、ここを第二の故郷と定めているものも多い。

「まぁ王族に利用されているだけだろうけどねっ」
「経済的にも軍事的にも力をつけてきたオアシスの、力を削ぐつもりってことか……」
「だから居住歴が三年未満の住人や、人口の多い人族や獣人族を王都へ送ってるってわけだ」
「なんだって?」

予想外過ぎる内容に、アンは声を一瞬荒げる。
 しかし、周りを見渡し直ぐに元の体勢へと戻った。

「なるほどな、それでギルド長がデザートプレデターの討伐に出張ってきたのか」
「街の権力者であるベルンが居なきゃ、なんとでもなるだろうからねっ」
「アタシも珍しいとは思っていたが、それでジジィが街の外へ……そう言う事だったのか!」

リリには分からない話を続けるアンとソフィア。

「だからこそ、アンが残っていたとしても、討伐隊には組み込まれていただろうねぇ」
「王都までの護衛はつけてくれるって言うんだから、殆どの関係ない住人には悪い話じゃあない、そんなところまで計算されているとすれば……これは、やってくたよねぇ」

ここまで静かに内緒話を聞いていたリリが口を挟む。

「悪い話じゃなさそうだし、良いんじゃないの?」
「まっ、リリちゃんにはこのやばさは、わからないだろうねっ」

リリの発言を軽く流したソフィアに、クラウディアが深刻そうに声をかけた。
 クラウディアはリリが良く分かっていない、事の重大さが分かっているらしい。

「砂漠の錬金術師様? それは私の権限でも覆せそうにありませんこと?」
「厳しいだろうねぇ、白銀の姫騎士は確かに有名な冒険者で元貴族様だが、お嬢様の実家、リューネブルグ家は王家と対立している元貴族派の派閥だろう?」
「まぁ、そうですわね」
「ましてやお嬢様は領主代行の身分も、弟に譲っているんだったね?」
「発表もしていないのに、なんでそれを!?」
「わたしは天才錬金術師だからねっ!」

(ソフィアが物知りすぎて怖いんだけど、錬金術師ってそんなものなの?)

驚く周りを歯牙にもかけずソフィアは話しを続ける。

「ともすればだ、入ることは出来てもなんだかんだで王都に縛り付けられるだけ、自由にはさせてもらえないとわたしは思うねっ」
「……そうですわね」

クラウディアは何かを考えつつ黙ってしまった。
 そう言うソフィアはその姿を見てリリ達に改めて語りかける。

「だからここにいる中で、街の中に入れる可能性があるのは、アンぐらいかなっ?」
「ソフィアは無理なの?」
「奴等は本気らしい、天才の私ですら難癖つけられてダメだったからねぇ、まぁ研究道具を持ち出せたからいいんだけどさっ!」

さっきまでの深刻な感じから打って変わり、明るい表情で背負っている大きなカバンを少し持ち上げ見せつける。

「ねぇ、わけのわからない設定がどんどん出てきて頭がパンクしそうなんだけど」
「この国の政治のはなしさっ、リリちゃんには関係ないから、もし必要になったら話してあげるよ」
「その言い方、疎外感が半端ないんですけど!」

リリは改めて割り込むが、一蹴されてしまった。

「まぁ、今回はアンの肩にでも座って訳知り顔さえしておけばいいのさっ、それともまた私の頭に座るかいっ?」
「結構ですぅーー」

(いっそ清々しいわね、確かにこの国の政治には私達は関係なさそうだしーまぁいっか)

リリは諦めて宙を向き足をプラプラさせた。
 その横でソフィアの話を聞いていたクラウディアは小さく呟きクリスタをチラリと見た。

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