18話、サウエム荒原(1)
ザーーーーー
バケツをひっくり返したような雨がとめどなく降り、滝の下にいるかのように真っ白になった荒原。
その様をカルラ・オアシスから南にそれた岩の上、街並みがギリキリ見えるかどうかという郊外で、キャンプを張り益体のない話をしていた。
「ひゃー雨と水蒸気で真っ白!」
「すっごいねぇ」
「それにしても本当にここって枯れた土地ね、この大量の雨水はどこに行ってるの?」
流石は死の荒原、水の足りない大地は、全てを吸収し水溜りの一つも出来ていない。
みるみる水を吸い込む大地を見て大はしゃぎで質問をするリリ。
それぞれが、ざっくりと意見を言っていく。
「さぁ、地下じゃない?」
(ラーナは適当ねぇ)
「ほぅ、地下に大空洞とな? あるなら行ってみたいのぉ、珍しい鉱物とかありそうじゃ」
(あんたはいつも自由ね……)
「ずっとこの国で諜報活動をしてきましたが、そういった噂はクリスタも聞いたことがありませんね、ソフィア様はどう思いますか?」
(逆にクリスタは真面目過ぎる、イヴァの言うことなんて話し半分に聞けばいいのよ?)
「私かいっ? 天才錬金術師としては、地下に水を吸っている巨大生物がいる、という説を推したいところかなっ?」
(んんっ!?)
「そんな説があるの!?」
心の中でツッコんでいたリリだったが、ソフィアの言葉に思わず声を上げてしまった。
「ん? ないよ?」
「っは!?」
「そんな荒唐無稽な話、あるわけないじゃあないか」
「じゃあ嘘ってこと?」
「もちろん、私が今! この場で! 考えたのさっ!」
(くそっ騙された、真実味のありそうなことを言うから信じちゃったじゃない)
「どうだいっ、浪漫があるだろう?」
「まったくお主は、相変わらずじゃの……」
やれやれといった感じで相槌を打つイヴァ。
リリも何か言おうとも思ったが、絶対にめんどくさくなるのは目に見えていたので、やめて話題を変えることにした。
「そういえばさぁ、なんでソフィアはこっちにいるの? わたし覚えてないんだけど」
「もう忘れちゃったのかい? 相変わらずリリちゃんの頭の中は空っぽなんだねぇ」
(ソフィアのやろう煽ってきやがってー、っま、心のひろーいわたしはそんな事で声を荒らげたりはしないんだけど)
自分に言い聞かせ、余計なことを言わないように押し黙る。
しかし、ソフィアは止まらない。
「あれっ? 黙っちゃうとは図星だったかい? それはそれは予想外だっ、すまないねっ、冗談だよっ!」
両手を合わせたソフィア、謝っているそぶりを見せながらも、リリにウィンクをした。
「ウソつけー!!」
思わず声を荒げたリリを見て、満足したソフィアは「しょうがないなぁ、話せばいいんだろっ?」というと、カルラ・オアシスでの経緯を話し出した。
* * *
デザートプレデターの一件から、命からがら逃げ延びてきたリリ達。
ボロボロの馬車を何とか引きずり、カルラ・オアシスの正門にまでたどり居ついた。
「ふぅ、なんとか街まで来たわね」
魔法をかけっぱなしでここまで来たので、疲労を隠せないリリとクラウディア。
「本当に災難でしたわ、せっかくきれいに磨いた鎧もドロドロになってしまったわ」
「あんなに大変な思いをしておいて身だしなみ? まぁ分からなくは無いけどさぁ」
「さっさと宿に戻って湯浴みをしたいわ、エルダーフラワーの残りはあったかしら?」
「クラウディア様、宿を出る前に店主に頼んであります」
(なにそれ、お風呂に花でも浮かべるの? 元貴族様は違うわー、羨ましいー、わたしなんて魔法でちゃちゃっと水浴びしてるだけなのにぃ)
言い合いをしつつ正門をくぐろうとする一行だったが、何故だか門兵に止められた。
「おいっそこの冒険者! 止まれ!!」
「っえ? いつもはそのまま通れますわよね?」
「で俺も帰りたいんだ、早く許可証を出せ!」
(許可証? なにそれ?)
リリがキョトンとした顔をしていると、門兵はぶっきらぼうに言い放つ。
「今は許可証を持ってないやつは入れられない、そういう決まりになっている」
「っは!? そんなの聞いてないんですけど……」
「ないならさっさと引き返しな、全く余計な仕事を増やしやがって」
シッシッっと手を振り答える門兵。
リリがイラッとすると同時に、アンが少し口調を荒らげて口を挟む。
「それはいつからできた制度なんだ? 冒険者ギルドで受付をしてるアタシでも知らない制度なんだが?」
馬車から出てきたアンに目を向けた門兵は焦りだす。
「っえ! アン・オーティスさん?」
「アタシが居ても入れないのか?」
「っでも、上からのお達しなので……」
門兵は一言答えるが、アンは納得できなかったのか、強めに言い返す。
「それじゃあなんだってんだい? アタシは自分の仕事を全う出来ないって事かい?」
「いやー、そういう訳じゃ……」
門兵はアンがいたことに面食らっていたのか、アンの勢いに押されたのか、口ごもる。
そこに聞き覚えのある、その場の空気からはかけ離れた明るい声が響く。
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