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夏の終わりとAマッソ単独

 赤坂見附駅から草月ホールへ向かう間、夏の終わりの心地よい空気を肌に感じつつ、なんだか今日はいい日だなと感じていた。年に数回くらいある、歯車が全てスムーズに噛み合う日の気配。脳内ではフジファブリックの「若者のすべて」がずっとかかっていた。自分の中で、最高の夏の終わりの日に聴くのがこの曲だ。18時の開演に間に合うかギリギリの時間になってしまったけど、不思議と気持ちが落ち着いている。きっとトイレに行って、心を落ち着けて、ゆっくり席についたら17時58分。そんな日の気がする。
女子トイレは思ったより並んでいて少しヒヤリとしたものの、用を足して席について、時計を見たら17時57分。やっぱり今日はいい日だ。

 公演が始まってからは夢中になって笑った。Aマッソのネタは毎度毎度わくわくする。自分の脳みそが一度も描いたことのないイメージを、彼女たちに好き勝手に脳内へ描かれるのが愉快で仕方がない。
コントの中で描かれる突飛なキャラクターは、「ああ、いるいるこういう人」という要素を多かれ少なかれ含んでいることがある。現実にいたらわたしは敬遠してしまうだろう。それでも舞台の上の魅力的な彼女たちが演じるからこそ、そのキャラクターはパワフルでチャーミングで、そして愛しい。異端な者の中にもどこか人間としての愛しさを見い出せることを感じさせてくれる。

 公演が終わり、駅へ向かう人の流れにのって歩く。しばらくはライブの余韻に浸っていたが、ふと周りの人のことが気になり、話し声に耳をすませてみる。
「Aマッソやっぱりすごいなあ」「面白かったね」
みんなが口々にライブの感想を言い合っていた。その中で。
「こんな日はさ、フジファブリックの若者のすべてが聴きたくなるよね。え、知らないの?」
一人の女の子が友達にそう言って、「若者のすべて」を口ずさみ始めた。
やっぱりなんだか、今日はいい日だなあ。

Aマッソ_01

絵と文:須澤 彩夏


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